2019年3月31日日曜日

アイゼン考(2019版)


新しく書き直したのでこちらを見てください

軽アイゼンの選び方(2020年版)
https://yamatabinokiroku.blogspot.com/2020/05/2020.html

(2020/5/8)













あまり人に見せることは考えていない私のこの山ブログだが、それでも見てくれる人がいるのは単純にうれしい。
過去に2回アイゼンについて思うところを書いたが、実はこれの閲覧数が意外と多い。
私自身いろいろな種類のあるアイゼンにどれを買ったら良いのか迷い、また実際いろいろ買って試してきた。
そしてそのへんを説明してくれる所が少ないなとは感じていたのだ。
だから同じように思って調べている人がここにたどり着くのかもしれない。

ただその割に、過去の記事では十分に・わかりやすく説明できた気がせず、ずっと気にかかっていた。
今年の冬は暖冬でアイゼン類を使う機会がなかったが、先週の雲取では少し使う機会もあった。
そのへんも含めて書き直しをしてみる。

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1.分類

大分類中分類小分類
アイゼン本格アイゼン12本爪
アイゼン本格アイゼン10本爪
アイゼン準アイゼン10本爪(小型)
アイゼン準アイゼン8本爪
軽アイゼン6本爪6本爪
軽アイゼン6本爪6本爪(巾調整型)
軽アイゼン4本爪4本爪(2本締め)
軽アイゼン4本爪4本爪(1本締め)
チェーンチェーン古典チェーン
チェーンチェーン爪付チェーン
チェーンチェーンプレート型チェーン
その他その他スパイク長靴
その他その他滑り止め
この表には私独自の呼び方も含まれるが、特に呼び方が存在しないだけで存在自体は「ああ、アレのことね」と同意してもらえるような内容のつもりだ。
特段私独自の解釈というわけではない。
大分類として、
 アイゼン:靴底全体を乗せるもの
 軽アイゼン:靴底の一部を乗せるもの
 チェーン:自動車のタイヤにチェーンを巻くように、靴底にチェーンを巻くもの
がある。
だが実際にどういったものを買うべきか、と考えるならば次に説明する中分類から選択することになるだろう。


1-1.本格アイゼン
アイゼンの中でも本格的な冬山登山に用いるもの。
森林限界上の急斜面を登降し、ピッケルなどを併用する事を想定している。
特にアイスクライミングに用いるもの(12本爪)は前爪が大きく頑丈に飛び出ている。
これについては私から説明する事はできない。
知識も経験も無いので。

1-2.準アイゼン
準アイゼンという呼び名は存在せず、私が便宜的につけたもの。
靴底全体を乗せるアイゼンではあるのだが。
プレートが小さかったり、爪が短めだったりで、本格的な冬山登山に用いるものとはちょっと毛色が違うものを指している。
本格的な冬山登山はしないが、靴底の一部しかカバーしない軽アイゼンは嫌だ・歩きにくくても靴底全部が乗るアイゼンが良い。
そんな人のための製品だと思う。

1-3.6本爪
おおよそ靴底の半分程度の長さ。
足の裏の親指の付け根あたりから踵の中程あたりまでが乗ることになる。
必要十分な滑り止めの機能性は確保しつつも、歩きやすさも考慮したバランス型。
小ささや軽さの点でもアイゼンより分がある。
軽アイゼンの王道とも呼ぶべき製品。
但し後述するが結構クセもある。

1-4.4本爪
靴底の土踏まずを乗せる小さな軽アイゼン。
靴のしなりを妨げないので、軽登山靴との相性がよい。
歩きやすさを重視しつつも、最小限の滑り止め機能は欲しい時に最適。
基本的には「アイゼン類などをつけずとも滑らないあるき方ができる」ことが前提となる。
その上で、滑らないあるき方ではどうにもならない圧雪・凍結にたいして威力を発揮する。
小ささや軽さの点でも優秀なので、使うかどうか分からないがザックに入れておくべき残雪期・春山に持っていくにも向いている。
価格も非常に安い。
但し。まったくの初心者が最初に買うには不向きかもしれない。
歩きかたにコツが必要で、かつ慣れないうちは土踏まずが痛くなる。
軽アイゼンとしてはオールドスクールではあるものの、チェーンが初心者向きとなった今では玄人好みといえる。
実際山でもあまり使用者を見かけなくなってきている。

1-5.チェーン
車のタイヤにチェーンを巻くがごとく、靴底にチェーンを巻いてしまえという発想。
昔は「あんなもの山で使用するものではない!」という考えもあったが、モンベルがチェーンアイゼンを出した頃から風向きが変わったように記憶している。
軽アイゼンと違って靴底のほぼ全体をカバーし、かつ靴のしなりを妨げない。
靴と地面との間の異物感も小さく、とにかくコツや慣れが必要なく初心者でも歩きやすい。
特に雪のない地面の上でも違和感が小さいので、まったく雪のない日向と、薄く凍結した日陰とがミックスした低山でつけっぱなしにできる。
現在ではもっとも初心者向きとして勧められる。

1-6.その他
一応そういうものもある、程度。

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ここからは小分類、具体的な製品で見ていく
モンベルが多いが、他のメーカーでも同等品があればそちらでも同じだろう。

1-2-1.10本爪(小型)

モンベル・スノースパイク10 8400円
つま先から踵まで、靴底全体に滑り止めが利きつつも爪が長すぎず低山でも過剰にならない。
特に前爪が短く、靴先から飛び出ないので邪魔にならない。
左右の幅は靴底よりも細くなっている。

YUEDGE・名称不明 4000円位
モンベルのスノースパイク10と同じコンセプトの安価品。
所持していて、数回使用した。製品自体は別に粗悪品ってほどでもない。
但し付属のケースはいきなりファスナーが壊れた。
「軽アイゼンではなくアイゼンが欲しいが、いきなり高価なものはちょっと。
 まずは安価なものでどんな使い勝手なのかを試してみたい。」
という向きにはよろしいかと。
(2019/5/4追記)
GWの八ヶ岳で、皆が爪の長い本格アイゼンを使用している中で、私はこれを使用してみた。
ピッケル刺しながら支点を取るような傾斜地では、この爪の短さは心もとない。
キックステップが切ってあるような場所なら良いのだが、皆が足を地面(傾斜)と並行に置いているような場所だと、この短い爪では雪の下の硬い圧雪・凍結まで届かず、置いた足が滑ってしまう。
確かに軽アイゼンとは違ってつま先側だけ・踵側だけで傾斜地に立つ事はできるのだが、さりとて本格的な冬山には力不足。
ではどういう状態の山に向いているのかと考えると……
ずいぶん中途半端な製品に思えてくる。



1-2-2.8本爪

モンベル・カジタックス8本爪アイゼン ※終売
分類というか、この1製品しか存在しない孤高の存在。
前爪が存在せず、つま先の爪が下向きに生えている。
小ささなステップにつま先で立つ事を想定しているのだろうか?
昨年まで売っていたが、今確認したらもう扱っていないようだ。



1-3-1.6本爪

モンベル・スノースパイク6 5200円
中分類のところでも述べたが、6本爪は軽アイゼンの王道ではあるが、一方でクセもある。
メリットはアイゼンよりもかなり歩きやすいこと。
特につま先が曲げられる点は大きい。
踵の真後ろに爪がないので、下りで踵の爪を引っ掛けることもない。
それでいて十分な滑り止めとしての機能は残している。
強いて言えば、急斜面の登りで不注意な歩き方をしているとつま先だけで地面を蹴ろうとしてしまい滑ることがある。
デメリットというかこの6本爪のクセなのだが、急斜面を歩いていると靴底でずれやすい。
ずれることによってテープバンドが変な締め付けになって食い込み、足が痛くなる。
柔らかい軽登山靴ではなく、固い登山靴ならばそのへんのデメリットも気にならないのかもしれない。
実際に所持していて、結構たくさん使った。
そのうえで言うならばこれは全く私の好みではない。
おそらくモンベル以外の同等製品も同じクセはあるだろう。
6本爪を買うならば、少し高くても次の幅調整タイプの製品を買ったほうが良いと思う。



1-3-2.6本爪(幅調整タイプ)

モンベル・スノースパイク6 クイックフィット 5800円
エバニュー・6本爪アイゼン 6000円位
所持していないので正確なところは断言できないが、どちらのメーカーでもほぼ同じだろう。
6本爪軽アイゼンの高級品版。
・プレートの幅を靴に合わせて調整できる。
・またテープバンドではなく硬めのシリコンでハーネス形状が作られている事。
・そしてそのハーネスがラチェット式で装着・脱着が楽なこと。
 が違う。
特にハーネス形状が作られているというのが大きく、テープバンドと違ってずれにくく、ずれることによるへんな食い込みをしないのではないかと期待できる。

冬の低山歩きをする上で、仮にアイゼン類はどれか一つしか所持できないのだとするならば。
おそらくこいつを選択するのがベストではなかろうか。
私自身も正直購入したいという気持ちはあるが、
個人的なことを言えば4本爪が好きすぎて、本来なら4本爪では力不足な場面でも4本爪でなんとかしてしまうクセがついてしまっている。
少し厳し目の山(真冬の丹沢の主脈上とか)に行くことがあれば、流石に4本は無謀なのでこいつを購入したい。



1-4-1.4本爪(2本締め)

イワタニプリムス・アイ・トレック 4本爪軽アイゼン 3000円位
以前はマウンテンダックスで扱っていた製品だが、倒産によりイワタニプリムスが扱うようになっている。
私が初めて買ったアイゼンでもある。
4本爪は土踏まずを乗せるのと、踵と靴の甲側とで締めることから6本爪ほどずれやすさは無い。
中分類のところで述べたが、基本的にアイゼン無しでも滑らない歩き方をする事が前提であり、
そうした歩き方が身についていたとしても滑ってしまうようなゆるい傾斜の凍結や、そこそこの傾斜の圧雪でも滑らないようにしてくれる製品である。
フラットフィッティングといって、地面に対して平らに足を置く歩き方。
4本爪をつけているならば、土踏まずから生えている爪をしっかり地面に打ち込むようにする。
踵から着地したり、つま先側で地面を蹴ったりすると、爪が利かずいとも簡単に滑る。
また慣れないと雪のない硬い地面を歩くときに土踏まずが下からの突き上げを食らって痛くなる。
これに関してはそのうち慣れるにしても、やはり初心者にはおすすめしにくい。


モンベル・コンパクトスノースパイク 2100円
現在私が最も愛用している軽アイゼン。
カテゴリ的には4本爪だが、左右に3本づつ・中央に2本、H型に並んでいる。
これは多少傾斜のある凍結箇所でも比較的制動力を高められるような刃並びでもある。
4本爪の形状でも性能の限界を少しでも高めようという工夫を感じる。
とはいえやはり凍結した傾斜のある場所で4本爪は怖いことに変わりはない。
6本爪以上を使うべきだろう。
そういう意味では人には強くおすすめできない。


エバニュー・4本爪アイゼンバックル式 3000~5000円?

4本爪の最高級品。
6本爪の幅調整型のようにシリコンハーネスかつラチェット式である。
4本爪マニアとしてはそそられる製品ではあるが、6本と違ってそもそもそんなにずれやすくは無いし、外した後で嵩張りそうな気もする。



1-4-2.4本爪(1本締め)

モンベル・スノースパイク シングルフィット 1800円
一般的な4本爪軽アイゼンと違って、踵側では締めない。足の甲側だけで締める。
初めて見た時から、
「簡単に外れてしまいそうだ。安いだけの欠陥品ではないか?」
と思っていた。
しかし何年も低山歩きで軽アイゼンを使っているうちに気付いてきた。
軽アイゼンの性能とは圧雪凍結のある箇所で滑らない事だけではなく、
圧雪凍結の無い箇所での邪魔にならなさでもあるのだと。
コンパクトスノースパイクは前者の性能を突き詰めた製品で、
このスノースパイク シングルフィットは後者の性能を突き詰めた製品なのだと。
すなわち、圧雪凍結の無い場所では外してしまう。
つけたり外したりが最も簡単で、かつはずして付属のケースに入れた状態がじゃまにならない。
ポケットにいれておけて、必要な箇所がまた出てきたら簡単につけ直す事ができる。
そういう製品なのだ、これは。
傾斜地での信頼性は低いだろうが、そもそも4本爪とはそういう場所で使うものではない。
(2019/5/4追記)
GWの八ヶ岳でこいつを使用してみて、すっかり気に入ってしまった。
つけたりはずしたりが楽な事はすでに分かっていたが、テント泊装備の重いザックをせおったままでも、ちょっと前にかがめば片手で外す事ができる。
(装着は流石に両手をつかう)
この軽アイゼンには前後の向きはあるが、左右の指定は無い。
無いのだが、留め金がフックになっている方を内側・リングになっている方を外側にすると良い。
例えば右足につけたこいつをちょっと屈んで右手で外す場合、親指でフック側を抑えて、人差し指・中指・薬指でリング側を引き寄せつつ少し浮かせれば、片手ではずすことができる。



1-5-1.古典チェーン

ルッド・チェーンアイゼン 5000円位
私が2番めに買ったもの。ド素人には4本爪を扱いかねて、もっと楽なのは無いかと探して行き着いたのがこれだった。
今のように山用のチェーンが各社から出る前で、山でこれを使っている人なんて私くらいのものだった(ちょっと自慢)。
とても歩きやすいが、カチカチの凍結には食いつきが悪い。
土踏まずの部分が開いているので、4本爪を装着した上からこれも装着することができた。
チェーンが氷玉をまといやすいのが難点。
一度氷玉になってしまうと、一度外して地面に叩きつけたりして氷を落とさないと重い。
また歩きやすいからと岩角に立ったりしていたものだから、2年目にしてチェーンが切れてしまった。



1-5-2.爪付チェーン
いつの間にかチェーンの使い勝手の良さが認識されるようになっていた。
またガチな冬山登山では使えないと言っても、低山あるきには充分であること、
何より初心者でも扱いやすいことが知れ渡って登山道具メーカーがこぞってチェーンを扱うようになった。
今ではもう「あんなものは山で使うものじゃない」などと言われない。
そして現在チェーンといえばこの、爪付きタイプが主流となっている。
チェーンの欠点である、凍結箇所での食いつきの悪さを改善したのだろう。

モンベル・チェーンスパイク 4600円

スノーライン・チェーンセンプロ 4500円位
どちらもチェーンの一部が小さな爪を持ったパーツに置き換えられている。



1-5-3.プレート型チェーン
チェーンの最新の傾向。
チェーンの一部を爪付きパーツに置き換えるのではなく、爪付きのプレートをチェーンでつないだような形状をしている。

カンプ・アイスマスター 5000円位
もはやチェーンと呼んで良いのか怪しくなってくる。
ただ評判は良いらしい。

YUEDGE・スノースパイク 2000円弱

アイスマスターのパチモノ。ただ安い。
おそらくだがプレートの金型は同じではないかと推測する。
使い勝手を試して見る分にはいいだろう。
そして使ってみた結果はなるほど楽だ。
10本爪アイゼンの安心感を、低山でオーバースペックにならないようチェーンの形式に落とし込んだかのような塩梅。
前側のプレートが蝶番になっていて、靴のしなりを妨げない。
土踏まずの部分にもチェーンが利いているので丸太の上に立つのもいくらか安心できる。
だがプレート部分にすぐに雪が固まってついてしまうのには参る。
最近のアイゼン・軽アイゼンにはその点雪がつきにくくする工夫があるのだけど。
チェーンには無理だ。
私にとってはルッド以来のチェーン。シリコンバンドで靴に引っ掛けるだけなので、装着も脱着も楽ちんではあるのだけど。
脱着した後が、泥で汚れたチェーンがじゃらついて意外とかさばる。
一度外したのを再装着する用途で考えると手軽な4本爪に軍配があがるかな、と。



1-6-1.スパイク長靴
ミツウマ・山林、林業向けスパイク底 岩礁100 15000円程度
スパイク長靴というのはもともとは海、濡れて藻がついたような岩礁でも滑らない為の長靴。
それの山林用が存在する。
基本的に踏み固められた登山道を歩くハイカーと違って、山林作業者は踏み固められていない、地面の柔らかい急斜面を歩く。
そういう用途の長靴。
ただ全国すべての山が奥多摩のようにきれいに登山道が整備されている訳でもなく。
踏み跡がなかったり、道が崩れて荒れてしまったような山を歩く為にスパイク長靴で登山する人も地域によっては居るそうな。
逆に言うと、きちんと整備された登山道では道を傷めてしまう。アイゼン程ではないだろうが。
とはいえ、新雪の降った直後の高尾山などに行くとこの特徴的な足跡を意外と見かけることがあるのだ。



1-6-2.滑り止め

モンベル・リバーシブルグリッパー 2400円


キャプテンスタッグ・滑らんぞーシリーズ 1000円前後
いわゆる街中用の滑り止め。
ホームセンターとかで売ってる。
ただモンベルのアイゼンラインナップにも入っているように、山での使用価値が全く無いわけでもない。
冬の高尾山などのように傾斜はほぼ無いが、たくさんの人に踏み固められ、薄く凍ったような道ではこのくらいの小さなトゲで充分である。
まあ、そういう道ならばなくても歩けるが。
あるいは尾瀬のような木道が長雨で濡れているときの滑り止めとしても使えるだろうか。
木道にアイゼンやチェーンではダメージが大きすぎるからね。



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2.いろいろ考察

ここからはコラム的な、断片的な書き方になるが、アイゼンを理解する上で知っておいたほうが良い事を書き連ねる。
基本的に私の考えは関東とその周辺で、森林限界よりも下での使用を想定している。



2-1.グレード別に見た向いている製品

最高:ピッケルが要るようなガチの冬山
 ⇛本格アイゼン

高:ピッケルを使うほどでもないが、積雪状態が途切れず場所によっては急傾斜・岩場もあり、滑落の危険が伴うコース。夏でも道の細いバリエーションルート
 ⇛6本爪・10本爪(小型)

中:夏ならば比較的安全で危険の少ない低山のハイキングコース
 ⇛6本爪・4本爪・チェーン

低:積雪自体が少なく、日向には全く雪がないが、日陰は薄く凍結してたり圧雪の斜面が残っているような低山。もう使うことは無いだろうけど、一応お守りとしてザックに入れておく用
 ⇛4本爪・チェーン



2-2.アイゼンに頼る?頼らない?
アイゼンは滑らないように安全の為に装着するものではあるが、
アイゼンさえつけていれば安全、というものでもない。
前提として、滑らない歩き方というのを身につけねばならない。
車だってスタッドレスタイヤやチェーンを装着していればどんな運転をしてもスリップしないわけではないでしょう。山道の歩きも同じ。
雪国で生活している人なら自然と身につくであろう歩き方、すなわち、
・小幅にゆっくりと歩く
・腰を落としてやや前傾姿勢
・地面に対して平らに足を置き、足の裏全体で均一に地面を踏みしめる
これを身につける必要はある。
これができていれば固く踏みしめられた圧雪であってもなだらかな場所・あるいは凍結していてもほぼ平らで多少の凸凹がある場所ならばアイゼン類は必要ない。
4本爪やチェーンはこの歩き方の延長上にある。
無論、やせ我慢で装着しないのは愚かであり、装着することで安全や安心が得られるなら付けたほうがいいだろう。
また10本爪となると、靴のしなりが全く利かなくなりこれらとはまた別の歩き方が必要になる。
6本爪はその中間。





2-3.なし・4本・6本・10本の特長
今は色々な選択肢があるとかえって混乱してしまうが。
本質的には4つの特長をまず覚えるとよいと思う。

なし(アイゼンをつけないで歩く)
 →歩きやすさA 滑り止め性能D
  滑らない歩き方を身につける必要がある

4本爪
 →歩きやすさB 滑り止め性能C
  アイゼン無しの歩き方の延長上にある。爪をしっかりと地面に刺すこと。
  なれるまでが面倒だが、なれると足の自由さと必要最小限の滑り止め性能が快適に思えてくる(※個人的な意見です)
  慣れたとしても急斜面の通行はやっぱり怖い。

6本爪
 →歩きやすさC 滑り止め性能B
  6本爪になると、歩き方はアイゼンとほぼ同じになる。
  それでもつま先を曲げられることの歩きやすさはとてもとても大きい。
  急斜面に立った時の安心感も4本とは比べ物にならないくらい大きい。

10本爪
 →歩きやすさD 滑り止め性能A
  非常にあるきにくい。
  踵だけで歩いていて、土踏まずより先は無いものと思うような感覚が必要。
  雪のない所をこれで歩こうものならあっという間に体力を吸い取られる。
  爪をズボンの裾に引っ掛けないよう気をつける必要もあり、足が一回り大きくなったような気もしてくる。
  その分滑り止めの性能は申し分なく、傾斜地でありながらツルツルに凍ったアイスバーンでもとても心強い。



2-4.ガチの冬山と低山とは世界が違う
チェーンの分類で「以前はあんなものは山で使うものではない」みたいな風潮があったことを書いた。
そういう事を言うのはガチの冬山をやるヤマ屋の意見だ。
そういう人から見たら、低山でも滑落の危険があるような場所でもアイゼンを使うべきだし、アイゼンが大げさに感じるならばしっかりと爪のささる軽アイゼンを使うべきだという考えなのだろう。
それほどでもない場所ならば、滑らないような歩き方を身につけるべきであって、滑ったところで尻もちをついてイテテで済むくらいの場所で登山道を傷めるアイゼンなど使うべきではない、という古い考え。
一理ある、とは思う。
そもそもきちんとした登山靴の靴底は街用の靴よりもずっと滑りにくくなっているのだし。
ただ今はハイキングブームであり、山岳会に入るよう人ばかりでもない。
冬は低山しか歩かないような人も多いだろう。
そんな人に、低山での安全・安心の為の工夫がもっとあってもいい。
歩き方ばかりに神経を集中して、体力を消耗したり、注意力が周辺に配れなくなるくらいならば道具で補ったほうが良いだろうと思う。
そういう考えが広まったからこそ、チェーンが普及してきたのではないか、と思うのだ。



2-5.大は小を兼ねない
アイゼンや滑り止めの為に色々な製品があることは既に見てきたが、基本的にでかくてごついやつほど滑り止めとしての機能は高い。
では「大は小を兼ねる」「安全が最優先」とばかりに皆が本格アイゼンをつかえばよいのかといえば、まったくもってそんな事は無い。
まず滑り止めの性能と、歩きやすさはトレードオフの関係になる。
滑らないことが何よりの歩きやすさでは?と思うかもしれないが、
こればっかりは10本爪のアイゼンや、軽アイゼンを一度装着して歩いてみてもらわないことには身に沁みての理解はできないと思う。
足首より先の、足の自由がきかない状態で歩く事の困難さ・疲労の増大は想像するよりもずっと大きい。
だからこそ、滑り止めとしての性能をへらしつつも足の自由をきくようにした軽アイゼンというカテゴリが存在するのだと思う。
また単純な話、小型軽量を追求する山道具の世界で、不必要に重いものは嫌われる。
次に述べる登山道へのダメージの事も考える必要がある。



2-6.登山道へのダメージ
ダブルストックが普及しだした頃、
「キャップを外して石突を露出したままだと、土を掘り返してしまって土砂の流失につながる。また木の根や木道を突くと傷める」
「岩場や積雪のある場所以外ではキャップは付けたまま使いましょう」
という啓蒙がさかんに言われた。
その事自体は間違いではない。
ただ、道が急峻な割に登山者の多いハイキングコース……例えば丹沢の表尾根・大倉尾根などを歩けば気付くだろうが、ああいう場所の木道や階段が数年でボロボロになってしまうのはアイゼンの爪のせいなのだ。
アイゼンの爪が登山道に与えるダメージに比べたら、ストックの石突など可愛らしいものでしか無い。
だが不必要なアイゼンの使用を控える呼びかけの声はない。
ストックと違って安全に関わることだけに、それで怪我遭難につながったら責任問題になってしまう。
だからアイゼンの爪が登山道を傷める事は誰もが分かっていながら、誰もが口を閉ざす問題なのだ。
それでいてストックの石突の事をあげつらうのは、なんともすわりの悪い感じがするなあと、以前から感じている。
だからこれは”自己責任の範疇で”となるが、必要以上にゴツいアイゼンは使わないに越したことは無いのだ。
4本爪ならば、爪を立てる場所をある程度選べる。
丸太の階段や木の根に爪を立てないよう避ける事ができるが、6本爪以上だと難しい。
またチェーンならばつけたままでもダメージは比較的小さい。
最初のうちは自身の安全確保が最優先になるのは当然だが、ある程度あるき慣れた道で使うならば、登山道の保全の事も考慮していただきたい。



2-7.つけたりはずしたり、またつけたり
ガチの冬山の怖さ・恐ろしさとは別に、低山特有のいやらしさというのもある。
・日向には全く雪がないが、日陰は圧雪や凍結している。
・積雪量はたいしたことないが、日中の気温で緩んだ雪が夜間の気温で再凍結する。そのため薄い凍結のくせにやけにツルツル滑る。
・実際現地に行ってみないと、どこにどの程度の圧雪・凍結があるのか分からない。
などなど。
アイゼンや軽アイゼンの爪は、圧雪や凍結などの硬く締まった箇所に食い込ませるためのものであり、そういう場所ではガリガリと爪の刺さる感触が心地よかったりすらある。
だが雪のない地面を歩くと途端に歩きにくくなってしまう。
故に本来的には雪のない箇所では外すべき、登山道へのダメージの観点からも外すべきなのだが、これがなかなかめんどくさい。
まず6本爪以上はつけたり外したりするのも一苦労だし、外した後はケースにしまってザックに入れるか、ザックに外付けするかになる。
再度必要になったらその都度ザックを降ろして一苦労。
やってらんないというのが本音。
そういう場所で使っていると、外したアイゼンは泥まみれになっているものだし、それをまた出して触るのも気が重い。
その点4本爪はつけ外しが簡単で汚れる面積自体も小さい。
ケースにしまえばポケットに入れておける大きさなので、また装着する手間も比較的小さいのがいい。
対してチェーンは雪のない場所でつけたまま歩いても、あるきにくさが小さい。
つけたりはずしたりが楽なのも確かだが、但し一度はずしたら泥まみれのチェーンがじゃらついてかさばって、なんというか扱いに困る。
それをケースにしまったならば、再度取り出して装着するのは手が汚れて嫌だなあって気持ちもある。



2-8.靴との相性
ガチの冬山には冬用の靴が必要になる。
だが低山ならば普段使いの靴でそのまま歩ける。
足首よりも下が柔らかい雪の中に埋まるような状況で長時間あるくと、つま先などが凍えてしまうが、その点だけ注意すれば軽登山靴でも問題はそんなに無い。
ただアイゼン・軽アイゼンは靴に固定するものであるから、ある程度の靴の硬さも要る。
私が6本爪アイゼンを酷評したのも軽登山靴に使用したからであって、硬い登山靴ならばそこまで気にするようなことではないのかもしれない。

10本爪アイゼン(ハーネスとテープで固定する方式に限る)
 →軽登山靴でも登山靴でも安定する

6本爪軽アイゼン(テープだけで固定する方式)
 →柔らかい軽登山靴は不向き

6本爪軽アイゼン(ハーネスとテープで固定する方式)
 →使用した事はないが、おそらく軽登山靴でも登山靴でも安定すると思う

4本爪軽アイゼン
 →軽登山靴でも登山靴でも安定する。
  但し雪のない地面を歩くと土踏まずが下からの突き上げを食らって痛くなる。
  硬い登山靴ならその弊害は小さだろうが、そもそも靴のしなりを妨げないのが4本爪の魅力なので、これは好みの問題ということにしておこう。

チェーン
 →柔らかい軽登山靴でなんの問題もない。むしろ柔らかい靴の為の選択。
  なんとなればミドルカットのブーツである必要すらないだろう。



2-9.周囲の皆が使うのと同等のアイゼンを使う必要性
私は4本爪の軽アイゼンを偏愛しているが、さりとてどんな場所でも4本爪で通せるかといえばそんな事はない。
4本爪の場合、傾斜地、つまり踵やつま先も使わざるを得ない場所では非常につらいことになる。
雪がまだ柔らかければ、水平に足を置けるようにステップを切ればよいのだが……
6本爪ならばそんな事せずとも、地面に並行に足を置いても制動力が利く。
そのため多くの人が6本爪で雑に歩く傾斜地は、ステップが潰されて地面が平らに圧雪されてしまうのだ。
そのためそういう場所の通行には6本爪アイゼンが必要になる。
各所のビジターセンターなどが降雪後に「最低でも6本爪以上のアイゼンを用意して」と呼びかけるのは、そうした事情もあるかと思う。
先日(GWの八ヶ岳)、皆がピッケルと本格アイゼンで通行する急傾斜地を、ストックと10本爪の準アイゼンで登り降りした際も同じような力不足感を味わった。
自分の好みや使い慣れた道具はあろうかと思うが、ある程度は皆が使っているのと同等以上のアイゼンを使う必要はあろうかと思う。




※まだ書き直したり書き足すかもしれないが、ひとますここで公開

2019年3月24日日曜日

2019/3/23土~24日 さよなら奥多摩小屋

最近山に行くゆとりはあまりないのだが。
それでも天気の良いこの週末にはなんとしても行きたいところがある。
このブログでも何度か触れてきたが、奥多摩町営の雲取奥多摩小屋がこの3月で閉鎖・取り壊しとなってしまう。
それに伴ってトイレ・テント場も閉鎖になる。
最後のお別れに行っておきたいのだ。




予定としてはいつもの。
ホリデー快速1号で行き、8:35の丹波行のバスで鴨沢から。
下山ルートは後で考える。
唐松谷林道や富田新道もいつかは歩いてみたいが、いかんせん日原から遠い。



 荷物を準備。
一度ツェルトを選択肢かけて、「いやいや3月の1800mでツェルトはまだ無理だろ」とテントを選び直す。
寝袋やダウンジャケットなどが高性能ならばツェルトでも行けるかもしれないが、そんな高価な装備は持ち合わせていない。



 新宿でホリデー快速1号に発車間際に飛び乗ると、座席はもうわずかしか空いていなくてギリギリ座れたありさま。
暖かくなって行楽客も増えてきた。



 鴨沢は小雨の中。
降水確率は10%だったはずだが。
駐在さんが「奥多摩小屋の水場は細くなっているので、七ツ石で水を汲んでいくように」と声をかけていた。
トイレをすませ、温かい缶コーヒーを飲む。



 9:17出発



 小雨だったのが強まってくる。
カッパを着たものかどうか迷うが、ひとまず着ないままで行く。
気温が高いのですぐに中が蒸れてしまいそうだ。



 小袖の登山口。特にかわりなく。



 堂所手前の水場で1Lだけ水を汲み、休憩する。
冬でもまず枯れることのない信頼性の高い水場だが、こんなに細くなっている。



 堂所をすぎると小雨はみぞれ混じりに



 完全に雲の中だ。



 マムシ岩のところで観念して上を羽織る。



 給水の為七ツ石小屋を経由する。
が、疲れた。雪が薄くつもった切り株に腰を降ろして休む。
今日は荷物が重いのもある。
鴨沢ルートはなだらかで急なところがなく歩きやすい。
それでいて腰をおろすのにちょうどいい場所が少なく、ついつい休憩しそびれてしまう。
いつもならマムシ岩のところで休むのだけど、上を羽織るのでバタバタしてたから。



 七ツ石小屋前でも腰を降ろして休憩。
だめだ、脚に疲労がたまりだしている。雪が強くなってきているが、ちゃんと休まないとだめだ。



 七ツ石小屋上の水場
ここもまず枯れることのない水場




 いつもより細くなっているものの、それなりにちょぼちょぼと出ている。



 七ツ石南面の巻道に入ると、西側の道がカリカリに凍結している。
日中に緩んだ雪が、夜間に再凍結を繰り返しているような固い凍結だ。
ほぼ平らなので、何もつけずとも歩けることは歩ける。



 ブナ坂十字路に出る。
せっかくなので、アレを試しておこう。



 昨年の秋口に買っておいた新しいやつ。
カンプのアイスマスター……の、パチモノ
YUAGEという以前買った10本爪のメーカーのもの。
10本爪のもひどい粗悪品ではなかったので、これもまあ大丈夫だろう。

メイドインチャイナなのは本家のカンプも同じだし、
肝心の底のプレート部は詳細に至るまで一緒なので、おそらく同じ金型だと思う。
耐久性はともかく、使い勝手の参考にはなるだろうと。

今になって気づいたが、YUAGEの10本爪もモンベルのスノースパイク10のパチモノだな。



装着するとこんな感じ。
チェーンの自由さがありながら、10本爪に近いグリップ感が得られると。
前側のプレートは蝶番になっていて、靴のしなりを妨げないようになっている。
評判がいいのもうなずける。

チェーンの類いを使うのは久しぶりだけど、歩いてみると確かにアイゼンとは違った楽さに納得させられる。
つま先からかかとまで何らかの滑り止めが働いていて、それでいて靴の曲がるのを一切妨げない。
靴と地面との間の違和感も小さく、歩きかたにコツが要らない。
確かに初心者向けではある。



 調子よくあるき出したものの、圧雪箇所があったのは最初の20m位で。
50mほどあるいたものの、これはもう必要ないなと諦めて外す。
するとこんな短距離しか歩いていないのに、プレートに泥混じりの雪が分厚くへばりついているではないか。
チェーンの欠点の一つがこの、雪がくっつきやすい点。
最近のアイゼン・軽アイゼンならば雪をつきにくくするため、爪の間に弾力性のあるプレートをつけてたりするのだけど。
チェーンではそれは望めない。



 とはいえ薄雪をまとったブナ坂は美しいな



 振り返って七ツ石山



 ヘリポートをすぎるともうテントがいくつも張られていた。
小屋につくまで数えていくと、27。
この時間でこれなら、最終的には40位になるだろうか。
程よい立地と広い場所、水場が近くて眺めは最高。
テントが張れるから、テント泊市に来る人が多いという一面はあるものの、
これだけのテント泊希望者を七ツ石小屋と雲取山荘では受け入れできないだろう。

今回のこの写真をPCで整理していて気づいたが、私自身昨年からのテント泊山行はGWの上高地以外すべてこの奥多摩小屋だった。
都心から一泊で行けて、程よく登った山中のテント場となると意外と選択肢はないのだ。
あとは……
 両神山の清滝小屋(遠い)
 七ツ石小屋(狭い)
 雲取山荘(鴨沢からも三峰からもちょっと大変)
 三条の湯(林道歩きが長過ぎる&標高を稼げないので翌日の行動がきつくなる)
 丹沢の大倉高原山の家(大倉から小一時間で山中とは言い難い。この先どうなるかわからない)
 大菩薩の福ちゃん荘(シーズン中は上日川峠から近すぎる)
と、なにがしかの不満点はある。
 


 14:25。ずいぶんとかかった。
奥多摩小屋に入ると、今日は宿泊者が居るようだ。
そして小屋番さんがいない。
紙に記入して、お金と一緒に箱に入れてくれとある。



 尾根の南側は泥になっているので、テントが汚れるのを嫌って北側で設置場所を探す。
靴で地面を平らにしようとするが、5cmほどの新雪をのけるとカチコチの凍結が出てくる。
諦めて、上半身分だけでもできるだけならす。



 強風は無いと判断して、張り綱は無し。
そのかわり四隅にはソリッドステーク20cmペグをハンマーで氷に刺さるまでしっかり打ち込んでおく。
山のテント場では四隅のペグを打たずに、張り綱だけ張る人が少なくないけど、あれは良くないと思うよ。
本当に強風が来たときに、張り綱だけでは耐えられるかどうか。
四隅のペグでテントを固定し、張り綱はポールが折れないようにするための補助だと思うよ。



 設営しおえて中で一休み。
このテントとも結構長い付き合い。
安いわりに快適なテントだが、本格的な山岳用テントと比べると重い。



 晩飯
マルちゃんのインスタントそば


 半分に折れば小さなクッカーでも2食分同時に作れる。



 19時近くなり、いい加減寒くなる。
多分外はもう氷点下だろう。
寝る準備をせねば。
この冬は暖かくて、ホームセンターで買った50枚入の使い捨てカイロを全然使わなかった。
ので、8枚ほど持ってきたのだ。
まず両足の裏と甲に張る。



 それからダウンベストの背筋に2枚。
両脇に2枚。
これで薄い寝袋でもなんとか寝られる。
特に足に張ったのはいいアイディアだった。

夜中寝ていると、どうにも背中がゴツゴツしていて良くない。
テントを張る前に鳴らしたのだが、雪で持ったところは沈むのに対して、固く凍結したところは沈まないようだ。
なんとか寝返りをうってしのぐ。
エマージェンシーブランケットをフロアシート代わりに敷き、リッジレストを使っていても底冷えは伝わってくる。
こんなに寒いとは思わなかった。
ネットの天気予報をみると「季節外れの寒気」などといっている。





 翌朝。
6時少し前に目は覚めたが、あまりに寒くて寝袋から出ることあたわず。
7時過ぎに膀胱が限界になってやむなく起きる。
案の定というか、水筒の水は凍っていた。



 トイレを済ませて小屋の前に立つ。
体の芯まで凍えるような冷たい風だが、天気は上々。



 最後に奥多摩小屋をもう一度。
山でのテント泊の楽しさと厳しさをここで学んだようなものだったよ。
残念です。
そして今までありがとうございました。



 自分のテントに戻ってきて、
はて、こんな傾斜地に建てたっけ?



 なんだかんだでよく眠れたようじゃない。



 まずは水を解かさないと朝飯が作れない。
塩分は充分とれているので、紅茶とカロリーメイトの朝食にする。



 昨日からどうもガスの出が悪いなと調べると、内部のゴムパッキンがボロボロになっていた。
スノピのギガパワー地、かれこれ5.6年は使っただろうか?
パッキンだけうってるかな?



 撤収。
地面がカチコチになっていて。釘抜き付きのかなづちを持ってたから良かったものの、なかったらペグが抜けなかったかも。



 さて、地面もカチコチなことだし。
同じく昨年秋に買っておいたものの、出番がなかったこいつを試してみよう。
モンベルのスノースパイクシングルフィット。
4本爪軽アイゼンのなかでも最もシンプルな造り。
その名の通り足の甲側でバンド一本だけで留める。



 夜間の冷気で固くしまった地面に、アイゼンの爪がカリッカリッと心地よく刺さる。



 2月の頭にはほとんど雪のない富士山だったけど、本来の富士山らしい姿になっている。



 凍結した巻道も。
さして傾斜がないのでアイゼンなしでもあるけるが、あったほうが安心感が違う。



 下段の巻道、倒木や崩落でずいぶんと荒れている。



 七ツ石小屋下分岐まできて、軽アイゼンを外す。
いや、なかなかよいなこれ。
私は長年いろいろなものを試した末、モンベルの4本爪「コンパクトスノースパイク」をもっとも愛用している。
用途が近いコイツのことは当然知っていたものの、傾斜地に立てばすぐにずれてしまう欠陥品ではないか?と思っていた。
その点については道のなだらかなこのコースでは検証できなかったが、一般論でいえば傾斜のきつい場所では4本爪ではなく6本爪以上を使えということだろう。
私が4本爪を偏愛しすぎているだけで。

この「スノースパイクシングルフィット」は4本爪のある特長を極限まで追求したものなのだ。
すなわち凍結箇所と全く雪のない場所とが混在する山で、必要に応じてつけたり・外したり・またつけたり、を最もやりやすくしたのがこの形なのだろう。
外したときに泥と雪とで派手に汚れて、じゃらついて意外としまいにくいチェーンとちがって。
汚れる箇所がそもそも大きくなく、付属の小さなケースに簡単にしまえる。
ケースも小さくて紐がついているので、ザックなりベルトなりに吊るしておけば、再び必要なときにさっと装着できる。
なるほどね。

同じ4本爪でも傾斜のある場所では「コンパクトスノースパイク」に分があるだろう。
(そもそもそっちは4本爪でありながら食いつきの良さ・制動力を追求した製品だ)
だが、こっちはこっちで悪くないな。
使うかどうかわからないなだらかな春山に、お守りがわりにザックに入れておくにはこいつのほうが良いのかも。



 鴨沢まで降りてくると暖かくてTシャツ1枚になりたいくらいだ。
この時11時頃。



 バスの時刻は頭に入っているので、鴨沢バス停には向かわず、直接東へ。



 留浦バス停の前にザックを置いて、貴重品だけ持って眼の前の食堂に。
11時開店なので、この店は。
そしてバスは11:50に来るので、



 一杯やるにはちょうどいいというわけだね。
昨日寝る前は千本ツツジから赤指尾根を南下して、1104ピークから留浦に降りる予定だったのだけど。
とにかく寒くて寝袋を出られなかった為、予定を変更して素直に鴨沢ルートで降りてきた次第。



 カツ丼をかっこむ。
うむ、うまい。ごちそうさま。
何度か利用しているこの食堂が島勝という名前だと最近知った。
東京都で最も西端の店なのだとか。
言われてみれば確かにそうだな。



早く帰りたかったが、もえぎの湯によって汗を流していく。
一泊したあとだし、さすがにね。
風呂上がりに体重計で確認したら、ザックの重量が15kgもあった。
食料がほぼなくなり、水が全く無い状態で15kg。
重いわけだよ。
しかし今回、無駄なものはほとんど持っていかなかったのになあ。
冒頭の荷物の写真のほかは、スマホと予備バッテリと財布くらいで。
道具の軽量化か。うーん、予算が。
ツェルトと半身マットがあればそれだけで寝られる夏が恋しい。