第一部 知識編
第二部 購入編
第三部 実践編
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序
毎年のように書いている軽アイゼンの記事だが、それはいくら書いても私の中でしっくりこないからでもある。
とはいえ世に登山指南の本や記事がたくさんあれど、軽アイゼンの包括的な解説は見当たらず、私自身が迷った内容を初心者向けに分かりやすく伝えたいという考えは変わらない。
今年も暖冬であまりアイゼン類を使う機会はなかったのだが。
頭の中でだいぶ整理も進んだので現時点での考えを整理しておきたい。
なお軽アイゼンといえば厳密には6本爪か4本爪の事をさすが、この記事で本格アイゼン以外の簡易なアイゼン類を総称して軽アイゼンと呼ぶ。
またこの記事では関東甲信エリアの森林限界よりも下を想定している。
先に全体的な結論を書いてしまうと、
「初めて雪山用のアイゼン類を買う初心者は、チェーンを買え」
「チェーンでは力不足な山に行くようになったらば、その山のグレードに応じて6本爪(巾調整・ハーネス式)か本格アイゼンを買え」
「6本爪(巾調整・ハーネス式)か本格アイゼンを持っていたとしても、チェーンは必要なので併用する」
ということになる。
以下はその結論に至る理由を長々と述べることになる。
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第一部 知識編
まずは軽アイゼンの分類を整理する。おおよその製品は以下の7つのいずれかに分類できる。
中には以下の7つには収まらない例外的な製品もある。8で紹介したい。
1.10本爪(小型)
2.6本爪(巾調整・ハーネス式)
3.6本爪(巾固定・テープバンド式)
4.4本爪(2本締め)
5.4本爪(1本締め)
6.チェーン
7.滑り止め
8.その他
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1.10本爪(小型)
「10本爪は軽アイゼンではなく本格アイゼンでは?」と思われるかもしれない。
しかし本格アイゼンとは明らかに毛色の頃なる10本爪もある。
モンベルのお店に行ける方なら、スノースパイク10とカジタックスとを見比べてもらえば一目瞭然だろう。
靴底のプレートが小さく、爪も短い。
靴底が踵から爪先まで全部乗るタイプだが、本格的な冬山には心もとない。
つまり「本格的な冬山はやらないが、靴底の一部しかカバーしない軽アイゼンは嫌だ」という人向けの製品になる、だろうか。
エバニューの10本爪アイゼン
モンベルのスノースパイク10
率直に言うとこれは買う必要のないアイテムだ。
6本爪では力不足な場面というのは、それなりに積雪がありながら爪先や踵のキックも必要になる急斜面であり、それならばもう本格アイゼンを使った方がいい。
「踏み跡の薄いマイナールートの急斜面だが積雪はそこまで深いわけでもなく、本格アイゼンだと爪が大きすぎでむしろ邪魔になる」といった場面も確かに無いわけでも無いだろうが。
そのために本格アイゼンとコレとを使い分けるというのも現実的ではないように思う。
それでも強いて言うならば。
ピッケルの必要になる冬山はやらず本格アイゼンは必要ないが、6本爪アイゼンの使用感が嫌いな人の為の物だろうか。
(2021/1/18追記)
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2.6本爪(巾調整・ハーネス式)
6本爪アイゼンは靴底の半分くらいをカバーする。
(巾調整・ハーネス式)というのは6本爪のなかでも高級品で、靴底のプレート部を靴に合わせて巾調整できるのと、靴への装着方法がハーネス式でつけ外しが簡単にできる。
エバニューの6本爪アイゼン(巾調整式)
モンベルのスノースパイク6クイックフィット
6本爪の利点は、
・靴底の半分くらいの大きさがあるので滑り止めとして十分な安心感がある。
・爪先とかかとに爪が無いので、爪を引っ掛けにくい。
・爪先が曲がるので柔らかい軽登山靴の利点を殺さない。
一方6本爪の欠点は
・爪先とかかとに爪が無いので、爪先やかかとで凍結の上に立つことができない。
・靴底でずれやすい。
10本爪と比較した場合の6本爪の特徴は、そのまま利点でもあり欠点でもある。
ただ森林限界下のトレースのある一般登山道を歩くのであれば、圧倒的に利点が大きく欠点は小さい。
最後の「靴底でずれやすい。」という点は補足が要るだろう。
靴の前後から挟む10本爪や、土踏まずのへこみにあてがう4本爪と違い、6本爪は靴底のどこにあてがうのかがはっきりせず、傾斜地に足を置いているうちに靴底でずれやすいのだ。
(巾調整・ハーネス式)はこのずれやすいという6本爪の欠点を改善したものとも言える。
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3.6本爪(巾固定・テープバンド式)
6本爪としての特徴は(巾調整・ハーネス式)と同じ。
アイトレックの6本爪アイゼン
モンベルのスノースパイク6
では何が違うのかといえば、見ての通りだが靴への固定方法がテープひもを靴に回しかけて最後に一か所でバックル留めする方法となっている点が異なる。
また靴底のプレート部も巾調整機能が無い分シンプルな構造になっている。
その分かさばらず・軽量で安価。
しかしながら先に述べた「靴底でずれやすい。」という欠点が、こちらの方が大きくでる。
登りの急傾斜に足を置いているうちに、靴底でアイゼンが前の方にずれてきて、踵の後ろのひもがずり落ちてきて、変な食い込み方をして足が痛い、なんてことも何度か経験した。
そうならないためには、テープひもをガチガチにきつく締めあげる必要があるのだが……
柔らかい軽登山靴だとその時点で足が痛くなる。
固い重登山靴ならばそんなこともないのかもしれないが。
とにかく手軽そうな見た目に反して、柔らかい靴との相性が良くないという点は注意したい。
初心者は最初に軽登山靴を買うと思うので。
6本爪でも(巾調整・ハーネス式)の方を勧める理由はここにある。
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4.4本爪(2本締め)
靴底の土踏まずのところにあてがう小さなプレートに4本の爪がついている。
踵の後ろと甲側の2か所で固定するのが(2本締め)タイプ。
軽アイゼンとしては古典的なアイテムだが、近年は後述するチェーンにおされてあまり見かけなくなってきている。
チェーンの使用感の楽さに比べて、4本爪は癖があるのだ。
慣れると靴の自由さ・解放感が楽しいのだが。
靴底の半分をカバーする6本爪と比べると、滑り止めの利く部分が土踏まずのところにしかなく、踵で着地したり爪先で地面をけったりすればツルリと滑ってしまう。
地面に対して平行に足の裏全体を置き、土踏まずの爪をしっかりと地面に刺しこむように歩く必要がある。
そのため傾斜のキツイ場所には不向き、というか危ないし、そういう場面では実際怖い。
視点を変えれば。
アイゼン類などつけていない状態でも滑らない歩き方というものがあり、その歩き方の延長で、それでも滑ってしまいかねない場面で必要最小限の滑り止めをアシストするのが4本爪ともいえる。
道がなだらかでよく整備されたハイキングコースならば、足を拘束される不自由感が小さい4本爪にも利点がある。
積雪の後にビジターセンターなどが「最低でも6本爪アイゼンを持参」と呼びかけるのは、6本爪なら安全というよりも、4本爪は使い慣れていないと滑ってしまって危ないという事情からそう言っているのだろう。
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5.4本爪(1本締め)
靴への固定方法が足の甲側の一か所となり、踵側にはない。
(2本締め)式よりも外れやすい、ように思える。
(2本締め)以上に傾斜のある場所で不安だが、もともと4本爪は傾斜のあるところでは不向きなので。
なだらかなコースでの使用と割り切ってしまえばこちらでも良いかもしれない。
凍結のある日影と、残雪のまったくない日向とが交互に表れるような状況だと、アイゼンのつけたり外したりが非常にめんどくさい。
(1本締め)はこの脱着を極限まで簡易にし、また外した後でかさばらない事を追求した製品であると思う。
モンベルのスノースパイクシングルフィット
私は長らくコンパクトスノースパイクの方を愛用していて、こちらを毛嫌いしていたのだが。
傾斜のある場所でどうにか4本爪で立とうという考えは捨てて、4本爪は傾斜のゆるい場所専用と考えればこちらでも良いのではと傾きつつある。
かぎ爪を引っ掛ける留め方は一緒だが、靴の横側で引っ掛けるコンパクトスノースパイクと異なり、こちらは何かの拍子に外れるといった事例はまだ経験がない。
慣れると重いザックを背負ったままでも、ちょっと前かがみになって片手で外すことができる。
装着はさすがに両手を使うが。
外した後でかさばらず、ケースにいれてベルトに通しておけば、必要な時にまたすぐに装着できるのがいい。
M.walkの4本爪アイゼンショートスパイク
(1本締め)式はながらく上記のモンベルのスノースパイクシングルフィットしかなかったのだが。
旧マウンテンダックスの4本爪を(1本締め)化したのがこちら。
爪がだいぶ短くなっている。
4本爪は土踏まずの場所に装着する理由で、靴底から飛び出る爪の長さはその分短くなる。
これはいくら何でも爪が短すぎるように思うのだが……
雪の無い場所で装着したままでも歩きやすいようにしたのだろうか?
それならばチェーンでいいように思うのだが。
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6.チェーン
雪山歩行の道具としては新顔の部類である。
車のタイヤにチェーンを巻くように、登山靴にもチェーンを巻いてしまえという発想。
昔は「あんなもの登山で使うものではない」などと思われていたようだが、
実のところ傾斜も急でなく・積雪量も多くない低山での使用ならば、軽アイゼンよりも圧倒的に使いやすい。
そのことが知れ渡ってきて、著名な登山用具メーカーも販売するようになり、急速に普及してきた。
その利点は
・一部をカバーする軽アイゼンと異なり、爪先からかかとまで靴底全体に滑り止めが利く
・固定のプレートが無く柔らかい靴のしなりを妨げない
・シリコンゴムバンドを靴にかぶせるだけなので、脱着も簡単
・金属の爪が小さいので、雪の無い場所でも装着したまま歩けてしまう
最初の利点が特に初心者向けの理由。アイゼン歩行のコツをつかむ必要がない。
もちろん「滑りにくい足の置き方・歩き方」は身に着けるべきだが、それはそれとしてやはり初心者にはメリットではある。
また最後の利点も大きい。凍結のある日影と、残雪のまったくない日向とが交互に表れるような状況でも、いちいち外したりせず装着したまま歩ける。
一方で欠点ももちろんある
・シリコンゴムバンドを引っ掛けているだけなので、外れる心配が常にある。特にかかとのずれ落ちが気になる
・湿った雪の上を歩くとすぐに氷が玉状にチェーンについてしまう
・外した後の汚れたチェーンがじゃらじゃらとして扱いに困る。泥の上を歩いた後だと特に。
とはいえ初心者が最初に買うべきアイテムがこれであることに変わりない。
この辺の欠点が気になるようになったらば、その時初めて4本爪も検討してみてはどうだろうか。
正直にいうと、長年4本爪を偏愛していた私が。ここ数年チェーンの楽さに心うばわれつつある。
カンプのアイスマスターライト
モンベルのチェーンスパイク
スノーラインのチェーンセンプロ
店頭で比較的見かける製品を3つ挙げてみたが。
ぶっちゃけどれでも一緒だと思う。
ひいきのメーカーのを買えばよい。
昔のチェーンは本当にチェーンだけだったが、現在売られているものはチェーンの一部を小さな爪付きの金具に置き換えている。
これによりチェーンの欠点だった「カチカチに凍結した路面への食いつきが悪い」点をいくらか改善している。
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7.滑り止め
短い金属の鋲を靴底に作る滑り止め。
これらは登山用具ではなく、主に街中で使用することを想定された商品である。
が、モンベルが販売しているように山での用途がないわけでもない。
冬の高尾山のように、傾斜が極めてなだらかで、多くの人によって雪が踏み固められ、薄く凍結しているような場面だとこれらで十分役にたつし、無いよりマシだろう。
モンベルのリバーシブルグリッパー
短い金属の鋲の面と、ザラザラとした滑りにくい面とリバーシブルに使える。
尾瀬の木道のように、濡れた木道が滑って危ないが、アイゼン類だと木道を傷めてしまうような場面を想定しているらしい。
冬の丹沢などはアイゼンの爪によって木道や木の階段が数年でボロボロにされてしまう。
安全にかかわる事なので大きな声では言えないが、必要以上に過剰にゴツイアイゼンは控えるようにしたいものです。
キャプテンスタッグの滑らんぞースリム
滑らんぞーシリーズはいろいろな形状の製品がある。
4本爪と併用したりする使い方もあるかもしれない。
好みで選べるのがよい。
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8.その他
ここまで見てきた7つの分類には収まらない・ちょっと別扱いにしたい気になる製品を紹介したい。
アイトレックのX型アイゼン
沢登り用途で、草付きの急斜面を登る用途で出ていた製品を、雪山用に逆輸入?した製品。
見ての通り4本爪と6本爪の中間といえるようなつくりをしている。
4本爪の脱着の容易さと外したあとのかさばらなさ・軽量さと
6本爪に近い滑り止めの範囲とのいいとこどりを狙った商品に見える。
2019年の12月に新製品の情報が出ながらなかなか発売にならなかったのが、2020年の3月になって店頭で見かけるようになった。
カンプのアイスマスター
現在普及しているチェーンアイゼンをさらに進化させた意欲作。
チェーンアイゼンと軽アイゼンのハイブリッド。
靴底の前の方とかかと下が軽アイゼンの様に金属プレートになっている。爪は短いが。
前の方は蝶番のようになっていて、靴のしなりを妨げないようになっている。
プレート状の金属から垂直に爪が出ているので、凍結した路面にもしっかりと爪が噛む。
そのため従来なら「6本爪以上でないと危ない」といわれるようなやや傾斜のあるつるつるの凍結路でもコイツでわりと危なげなく歩けてしまう。
シリコンゴムバンドを引っ掛けるだけのつくり故、過信は禁物だがわりとオールマイティ。
湿った雪や泥の上を歩くとチェーン以上に団子ができやすいのが欠点。
スノーラインのチェーンセンウルトラ
アイスマスターと同じく、現状のチェーンに+αの発想。
こちらは小さなものではあるが、前爪をつけることで急斜面の登りで爪先のけりこみを利かせやすくしている。
そもそも急斜面の登りでチェーンを選択すべきか、という疑問はあるが。
M.walkのチェーンアイゼンバックル式
チェーンアイゼンの欠点の一つである「シリコンゴムバンドを靴に引っ掛けているだけなので不安がある」という点を、テープひもを締めあげる方式に置き換えることで解消した製品。
もちろんその反面脱着が容易というチェーンの利点が死んでしまったが、選択肢があるのはいい事だろう。
もう一点、現在のチェーンでは当たり前にある、小さな爪が無いのが特徴。
凍結路面への食いつきは悪くなるが、コンクリート舗装路や石ばかりのガレ場ではむしろその方がいい。
この製品のことをさる林業家が絶賛していた。
山林用スパイク長靴は長時間歩いていると足に負担だが、固くて足への負担が少ない登山靴だと急斜面ですべる。
この製品は登山靴にスパイク長靴のような滑り止めを付与できる、と。
確かに言われてみればこれは、雪山用のアイゼンというよりも、スパイク長靴に近い発想かもしれない。
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第二部 購入編
購入の指針は冒頭で書いてしまったが。
ここでは何を買うべきかの理由となる各製品の特長を整理してみたい。
どういう場所を歩くなら、どういう製品を買うべきなのかの参考にしてほしい。
1.ずっと雪のある場所を歩くか、雪の無い場所も歩くか
冬の低山や、春のアルプスでは、
「陽の当たる場所の雪は全部融けてしまっている」
「日影では日中の気温で緩んだ雪が、夜間の氷点下で再凍結してツルツル」
という状態が珍しくない。
いやむしろずっと積雪のある状態が続くという方が珍しい。
大きな金属の爪が生えているアイゼン・軽アイゼンは、積雪の無い場所だととても歩きにくい。
積雪の無い日向ではアイゼンを外すことになるが、必要ならまた装着しないといけない。
脱着の容易さ・外した後のかさばらなさというのは結構大きなポイントだ。
EX:チェーン:つけたまま歩ける
A:4本爪:脱着容易で小さい
B:6本爪(巾調整・ハーネス式):脱着は容易だが、外したあとがでかい
C:6本爪(巾固定・テープバンド式):脱着が面倒で、外したあともややでかい
基本的に6本爪以上はずっと積雪が続く状態で使うもので、
積雪の無い所と有る所が混在するような状態なら、4本爪(都度脱着する)かチェーン(つけっぱなしにする)かを選択した方がよいだろう。
2.靴は固いか、柔らかいか
初心者はふつう値段も安く歩きやすい軽登山靴を買うと思う。
いきなり高価で固くて重い登山靴を買う人はいないだろう。
だがここまで述べてきたように、軽アイゼンの種類によっては柔らかい靴には不向きな製品もある。
柔らかい靴でも苦痛なく装着できるかもポイントになる。
A:チェーン:束縛感なし
B:10本爪(小型)・6本爪(巾調整・ハーネス式)
ハーネス形状になっているので束縛感はそこまで強くない
C:4本爪:土踏まずのへこみに収まるので、そこまできつく締めあげずとも
装着できる。ただし靴底が柔らかいと、固い地面を歩いたときに
土踏まずが下からの突き上げを受ける。
D:6本爪(巾固定・テープバンド式):テープひもをぎっちり締めあげないとずれる
テープひもが柔らかい靴に食い込んで痛い。
こうしてみると、軽アイゼンも固い登山靴での使用を想定したものであり。
柔らかい靴との相性がいいチェーンが普及したのももっともだ。
ただ柔らかい靴でも締め上げられる束縛感が無いということは、靴への固定力が弱いという事でもあり、外れやすいという事でもあることは承知されたし。
3.傾斜はきついか、ゆるいか
これはアイゼン類の基本スペックとも言ってよい部分だが。
簡易な軽アイゼンほど急斜面での使用は想定していない。
険しい山に登るなら、それなりのアイゼン類を用意しないといけない。
EX:本格アイゼン:一般に「ピッケルが必要」と言われるルートならば、
アイゼンも本格アイゼンを履いていることが求められる。
A:10本爪(小型):急斜面でも爪先や踵のキックを利かせられる。
しかし爪の長さは6本爪と変わらない。
急斜面と平行に踏み固められた圧雪では爪がちゃんと利いてくれるかの不安がある。
B:6本爪:爪先や踵と使わずとも立てる程度の斜面ならば、6本爪でもそれなりに安心感はある。
C:チェーン:いくら爪先から踵まで滑り止めが利くといっても。チェーンで急斜面に立つのはあまり推奨できない。
チェーンや小さい爪では斜面への食いつきが弱く、またシリコンバンドがずれて靴から外れてしまうかもしれない恐れもある。
D:4本爪:急傾斜では危険。
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第三部 実践編
八ヶ岳の西側、美濃戸から赤岳鉱泉をへて地蔵尾根を登るコース。
この人気コースをGW頃に歩くと想定してみよう。
美濃戸口~美濃戸
:もう雪も残っていない。
美濃戸~堰堤広場
:陽の当たる場所は雪はないが、日影の林道はツルツルに凍結している。何かつけたいところ。
林道で傾斜はほぼないので、4本爪かチェーンで十分だろう。
着けたり外したりを繰り返すので、6本爪以上は面倒だ。
自信があれば何も着けないでも歩けるだろうが、滑って転ばないように気を付けて。
堰堤広場~赤岳鉱泉
:林道が終わり、山道にはいる。
凍結箇所が多めでステップの小さなところもあるので4本爪は慎重に。チェーンが望ましい。
もう雪の無い場所はなくなるので、6本爪以上を装着してもいい。
沢沿いにかかる木の桟道などは雪がなくなっているかもしれないが、そういう所をアイゼンの爪で傷めてしまうのは心苦しい。チェーンを推奨したいが、安全第一で。
赤岳鉱泉~行者小屋
:中山乗越へ向かうと雪が深くなる。とはいえ良く踏まれているので、トレースを踏み外さなければスノーシューの類は無くても問題ない。
チェーンや4本爪でも歩けるが、6本爪の方が安定感をもって歩ける。
行者小屋~地蔵尾根前半
:まだ雪深い樹林帯の中を登っていくと徐々に傾斜がきつくなっていく。
もうチェーンや4本爪では厳しい。
6本爪でも最初のうちは歩けるが、傾斜がきつくなってくると爪先で登らざるをえず、これも厳しい。
圧雪の斜面だが、ステップは切られずに斜面に平行に踏み固められているはずだ。
地蔵尾根後半
:樹林帯を抜け、夏ならば鎖や梯子のあるあたり。本格アイゼンが要る。ピッケルもあったほうがいい。
急斜面と平行に踏み固められた圧雪は、爪の短いもの(小型10本爪・6本爪)では制動が利くか不安がある。
逆にもっと傾斜がきつくなると、本格アイゼンを履いている人たちもキックステップをつかったりツボ足で歩くので、本格アイゼンでなくとも意外と歩ける。(推奨はできないが)
地蔵の頭~赤岳頂上
:稜線上になり、西風に吹き曝しになる。本格アイゼンとピッケルが無ければ危険。
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こんなところだろうか。
厳冬期の雪山はへっぽこハイカーの私の手に余る世界なので他をあたってほしい。
総じて言えるのは、「そのコースを行く他の皆が使っているアイゼン類と同等以上のアイゼン類を装着する必要がある」ということ。
極論を言えばどんな急斜面だろうと階段の様に水平にステップが切られていれば、アイゼン類なしでも歩けなくはないだろう。
だが十分な性能のアイゼン類を装着していると、皆面倒なキックステップなどせずにペタペタと歩いて、結果斜面と平行に踏み固められてしまう。
そういう場面で一段低い性能のアイゼン類だとスリップの危険があるのだ。
冒頭の話に戻るが。
たくさんのアイゼン類を持って行って、道の状況に応じて使い分けるというのも現実的ではない。
しかし本格アイゼン一つしかない人が、麓近くで歩きにくいの(or着けたり外したり)を嫌ってアイゼン無しで歩いて、日影の凍結箇所で滑って転ぶというのもよくある話。
故に私は2つ持つことを推奨したい。
赤岳まで登るのならば、本格アイゼンとチェーンの2つを持つ。最初はチェーンで歩いて、堰堤広場~赤岳鉱泉~行者小屋のどこかで本格アイゼンに履き替える。
北沢~赤岳鉱泉~中山展望台~行者小屋~南沢のスノーハイクコースならば。6本爪とチェーンの2つを持つ。つけたり外したりの発生する北沢コースの林道や、雪の薄くなる南沢の下の方ではチェーンで、それ以外は6本爪と使い分ける。
好みに応じてチェーンを4本爪にしてもいいだろう。
ちなみに2つのアイゼン類を使い分けるまでもない山ならば。
・チェーンをつけっぱなしで歩く
・4本爪を必要に応じて着けたり外したりする
だが。
もし6本爪でないと危険な場所が出てきたらどうしよう?という不安はある。
すなわち、足場が悪く・それなりに傾斜があり・固く凍結しているような場所だ。
そういう場所があると最初から分かっていれば6本爪をもっていけばいいが、必要ないかもしれないのに6本爪を持っていくのは億劫だ、という気持ちはわかる。
そういう場所ではカンプのアイスマスターが良い。これが最近のお気に入り。
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最近低山のバリエーションを歩く機会が多く、それで気づいた事がある。
トレースはそれなりに踏み固められている急斜面(=キックステップが入らない)で、砂ざれで滑りやすい箇所などは晩秋~初冬には落ち葉が積もって滑りやすくて難儀する。
登りはまだしも下りでは尻を地面につけて降りるような場面も無くはない。
そんな所で雪が積もっていたとしたら……
雪・凍結が薄く、本格アイゼンを使うまでもないが、爪先から踵まで刃があるアイゼンが欲しい局面はあるかもしれない。
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2.6本爪(巾調整・ハーネス式)
6本爪アイゼンは靴底の半分くらいをカバーする。
(巾調整・ハーネス式)というのは6本爪のなかでも高級品で、靴底のプレート部を靴に合わせて巾調整できるのと、靴への装着方法がハーネス式でつけ外しが簡単にできる。
エバニューの6本爪アイゼン(巾調整式)
モンベルのスノースパイク6クイックフィット
6本爪の利点は、
・靴底の半分くらいの大きさがあるので滑り止めとして十分な安心感がある。
・爪先とかかとに爪が無いので、爪を引っ掛けにくい。
・爪先が曲がるので柔らかい軽登山靴の利点を殺さない。
一方6本爪の欠点は
・爪先とかかとに爪が無いので、爪先やかかとで凍結の上に立つことができない。
・靴底でずれやすい。
10本爪と比較した場合の6本爪の特徴は、そのまま利点でもあり欠点でもある。
ただ森林限界下のトレースのある一般登山道を歩くのであれば、圧倒的に利点が大きく欠点は小さい。
最後の「靴底でずれやすい。」という点は補足が要るだろう。
靴の前後から挟む10本爪や、土踏まずのへこみにあてがう4本爪と違い、6本爪は靴底のどこにあてがうのかがはっきりせず、傾斜地に足を置いているうちに靴底でずれやすいのだ。
(巾調整・ハーネス式)はこのずれやすいという6本爪の欠点を改善したものとも言える。
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3.6本爪(巾固定・テープバンド式)
6本爪としての特徴は(巾調整・ハーネス式)と同じ。
アイトレックの6本爪アイゼン
モンベルのスノースパイク6
では何が違うのかといえば、見ての通りだが靴への固定方法がテープひもを靴に回しかけて最後に一か所でバックル留めする方法となっている点が異なる。
また靴底のプレート部も巾調整機能が無い分シンプルな構造になっている。
その分かさばらず・軽量で安価。
しかしながら先に述べた「靴底でずれやすい。」という欠点が、こちらの方が大きくでる。
登りの急傾斜に足を置いているうちに、靴底でアイゼンが前の方にずれてきて、踵の後ろのひもがずり落ちてきて、変な食い込み方をして足が痛い、なんてことも何度か経験した。
そうならないためには、テープひもをガチガチにきつく締めあげる必要があるのだが……
柔らかい軽登山靴だとその時点で足が痛くなる。
固い重登山靴ならばそんなこともないのかもしれないが。
とにかく手軽そうな見た目に反して、柔らかい靴との相性が良くないという点は注意したい。
初心者は最初に軽登山靴を買うと思うので。
6本爪でも(巾調整・ハーネス式)の方を勧める理由はここにある。
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4.4本爪(2本締め)
靴底の土踏まずのところにあてがう小さなプレートに4本の爪がついている。
踵の後ろと甲側の2か所で固定するのが(2本締め)タイプ。
軽アイゼンとしては古典的なアイテムだが、近年は後述するチェーンにおされてあまり見かけなくなってきている。
チェーンの使用感の楽さに比べて、4本爪は癖があるのだ。
慣れると靴の自由さ・解放感が楽しいのだが。
地面に対して平行に足の裏全体を置き、土踏まずの爪をしっかりと地面に刺しこむように歩く必要がある。
そのため傾斜のキツイ場所には不向き、というか危ないし、そういう場面では実際怖い。
視点を変えれば。
アイゼン類などつけていない状態でも滑らない歩き方というものがあり、その歩き方の延長で、それでも滑ってしまいかねない場面で必要最小限の滑り止めをアシストするのが4本爪ともいえる。
道がなだらかでよく整備されたハイキングコースならば、足を拘束される不自由感が小さい4本爪にも利点がある。
積雪の後にビジターセンターなどが「最低でも6本爪アイゼンを持参」と呼びかけるのは、6本爪なら安全というよりも、4本爪は使い慣れていないと滑ってしまって危ないという事情からそう言っているのだろう。
アイトレックの4本爪アイゼン
倒産した旧マウンテンダックスのロングセラー商品。
4本爪といえばこれが浮かぶ人も多いだろう。
踵側が固定長のワイヤーで、ワイヤーの途中からテープバンドを回して甲側で締めることで装着をシンプルにしているのが工夫。
M.walkの4本爪アイゼンロングバンドコンパクト
マウンテンダックスの軽アイゼンを引き継いだブランドは
・アイトレック
・イワタニプリムス
・M.walk
の3つがある模様。
旧製品をそのまま販売する前二社とことなり、M.walkは積極的に改造を加えているのが特徴のブランド。
一本の長いテープひもを踵の後ろ側だけでなく、足首の前にも回すことでずり落ちを防止しているのだろう。
モンベルのコンパクトスノースパイク
カテゴリーとしては「4本爪」だが、両側に3本づつ、中央に2本の爪がH字状に並んでいる。
小さなプレートでも滑り止めの制動力が最大限に利かせられるようにとの工夫がみえる。
ゴムバンドの先のかぎ爪を引っ掛けるタイプの装着方法なのだが、
かなりきつめに長さを調整しておいて、力一杯引っ張ってなんとかかぎ爪を引っ掛ける、という位でないと歩いている最中に外れてしまうことがある。
そのため見た目ほど脱着が楽でもない、のが欠点。
エバニューの4本爪アイゼン
4本爪軽アイゼンの最高級品。
6本爪(巾調整・ハーネス式)の様にシリコンハーネスが作られていて、ラチェット式のバックルで脱着も早い。
ただし外した後がかさばるのが難。
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5.4本爪(1本締め)
靴への固定方法が足の甲側の一か所となり、踵側にはない。
(2本締め)式よりも外れやすい、ように思える。
(2本締め)以上に傾斜のある場所で不安だが、もともと4本爪は傾斜のあるところでは不向きなので。
なだらかなコースでの使用と割り切ってしまえばこちらでも良いかもしれない。
凍結のある日影と、残雪のまったくない日向とが交互に表れるような状況だと、アイゼンのつけたり外したりが非常にめんどくさい。
(1本締め)はこの脱着を極限まで簡易にし、また外した後でかさばらない事を追求した製品であると思う。
私は長らくコンパクトスノースパイクの方を愛用していて、こちらを毛嫌いしていたのだが。
傾斜のある場所でどうにか4本爪で立とうという考えは捨てて、4本爪は傾斜のゆるい場所専用と考えればこちらでも良いのではと傾きつつある。
かぎ爪を引っ掛ける留め方は一緒だが、靴の横側で引っ掛けるコンパクトスノースパイクと異なり、こちらは何かの拍子に外れるといった事例はまだ経験がない。
慣れると重いザックを背負ったままでも、ちょっと前かがみになって片手で外すことができる。
装着はさすがに両手を使うが。
外した後でかさばらず、ケースにいれてベルトに通しておけば、必要な時にまたすぐに装着できるのがいい。
M.walkの4本爪アイゼンショートスパイク
(1本締め)式はながらく上記のモンベルのスノースパイクシングルフィットしかなかったのだが。
旧マウンテンダックスの4本爪を(1本締め)化したのがこちら。
爪がだいぶ短くなっている。
4本爪は土踏まずの場所に装着する理由で、靴底から飛び出る爪の長さはその分短くなる。
これはいくら何でも爪が短すぎるように思うのだが……
雪の無い場所で装着したままでも歩きやすいようにしたのだろうか?
それならばチェーンでいいように思うのだが。
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6.チェーン
雪山歩行の道具としては新顔の部類である。
車のタイヤにチェーンを巻くように、登山靴にもチェーンを巻いてしまえという発想。
昔は「あんなもの登山で使うものではない」などと思われていたようだが、
実のところ傾斜も急でなく・積雪量も多くない低山での使用ならば、軽アイゼンよりも圧倒的に使いやすい。
そのことが知れ渡ってきて、著名な登山用具メーカーも販売するようになり、急速に普及してきた。
その利点は
・一部をカバーする軽アイゼンと異なり、爪先からかかとまで靴底全体に滑り止めが利く
・固定のプレートが無く柔らかい靴のしなりを妨げない
・シリコンゴムバンドを靴にかぶせるだけなので、脱着も簡単
・金属の爪が小さいので、雪の無い場所でも装着したまま歩けてしまう
最初の利点が特に初心者向けの理由。アイゼン歩行のコツをつかむ必要がない。
もちろん「滑りにくい足の置き方・歩き方」は身に着けるべきだが、それはそれとしてやはり初心者にはメリットではある。
また最後の利点も大きい。凍結のある日影と、残雪のまったくない日向とが交互に表れるような状況でも、いちいち外したりせず装着したまま歩ける。
一方で欠点ももちろんある
・シリコンゴムバンドを引っ掛けているだけなので、外れる心配が常にある。特にかかとのずれ落ちが気になる
・湿った雪の上を歩くとすぐに氷が玉状にチェーンについてしまう
・外した後の汚れたチェーンがじゃらじゃらとして扱いに困る。泥の上を歩いた後だと特に。
とはいえ初心者が最初に買うべきアイテムがこれであることに変わりない。
この辺の欠点が気になるようになったらば、その時初めて4本爪も検討してみてはどうだろうか。
正直にいうと、長年4本爪を偏愛していた私が。ここ数年チェーンの楽さに心うばわれつつある。
カンプのアイスマスターライト
モンベルのチェーンスパイク
スノーラインのチェーンセンプロ
店頭で比較的見かける製品を3つ挙げてみたが。
ぶっちゃけどれでも一緒だと思う。
ひいきのメーカーのを買えばよい。
昔のチェーンは本当にチェーンだけだったが、現在売られているものはチェーンの一部を小さな爪付きの金具に置き換えている。
これによりチェーンの欠点だった「カチカチに凍結した路面への食いつきが悪い」点をいくらか改善している。
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7.滑り止め
短い金属の鋲を靴底に作る滑り止め。
これらは登山用具ではなく、主に街中で使用することを想定された商品である。
が、モンベルが販売しているように山での用途がないわけでもない。
冬の高尾山のように、傾斜が極めてなだらかで、多くの人によって雪が踏み固められ、薄く凍結しているような場面だとこれらで十分役にたつし、無いよりマシだろう。
モンベルのリバーシブルグリッパー
短い金属の鋲の面と、ザラザラとした滑りにくい面とリバーシブルに使える。
尾瀬の木道のように、濡れた木道が滑って危ないが、アイゼン類だと木道を傷めてしまうような場面を想定しているらしい。
冬の丹沢などはアイゼンの爪によって木道や木の階段が数年でボロボロにされてしまう。
安全にかかわる事なので大きな声では言えないが、必要以上に過剰にゴツイアイゼンは控えるようにしたいものです。
キャプテンスタッグの滑らんぞースリム
滑らんぞーシリーズはいろいろな形状の製品がある。
4本爪と併用したりする使い方もあるかもしれない。
好みで選べるのがよい。
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8.その他
ここまで見てきた7つの分類には収まらない・ちょっと別扱いにしたい気になる製品を紹介したい。
アイトレックのX型アイゼン
沢登り用途で、草付きの急斜面を登る用途で出ていた製品を、雪山用に逆輸入?した製品。
見ての通り4本爪と6本爪の中間といえるようなつくりをしている。
4本爪の脱着の容易さと外したあとのかさばらなさ・軽量さと
6本爪に近い滑り止めの範囲とのいいとこどりを狙った商品に見える。
2019年の12月に新製品の情報が出ながらなかなか発売にならなかったのが、2020年の3月になって店頭で見かけるようになった。
カンプのアイスマスター
現在普及しているチェーンアイゼンをさらに進化させた意欲作。
チェーンアイゼンと軽アイゼンのハイブリッド。
靴底の前の方とかかと下が軽アイゼンの様に金属プレートになっている。爪は短いが。
前の方は蝶番のようになっていて、靴のしなりを妨げないようになっている。
プレート状の金属から垂直に爪が出ているので、凍結した路面にもしっかりと爪が噛む。
そのため従来なら「6本爪以上でないと危ない」といわれるようなやや傾斜のあるつるつるの凍結路でもコイツでわりと危なげなく歩けてしまう。
シリコンゴムバンドを引っ掛けるだけのつくり故、過信は禁物だがわりとオールマイティ。
湿った雪や泥の上を歩くとチェーン以上に団子ができやすいのが欠点。
スノーラインのチェーンセンウルトラ
アイスマスターと同じく、現状のチェーンに+αの発想。
こちらは小さなものではあるが、前爪をつけることで急斜面の登りで爪先のけりこみを利かせやすくしている。
そもそも急斜面の登りでチェーンを選択すべきか、という疑問はあるが。
M.walkのチェーンアイゼンバックル式
チェーンアイゼンの欠点の一つである「シリコンゴムバンドを靴に引っ掛けているだけなので不安がある」という点を、テープひもを締めあげる方式に置き換えることで解消した製品。
もちろんその反面脱着が容易というチェーンの利点が死んでしまったが、選択肢があるのはいい事だろう。
もう一点、現在のチェーンでは当たり前にある、小さな爪が無いのが特徴。
凍結路面への食いつきは悪くなるが、コンクリート舗装路や石ばかりのガレ場ではむしろその方がいい。
この製品のことをさる林業家が絶賛していた。
山林用スパイク長靴は長時間歩いていると足に負担だが、固くて足への負担が少ない登山靴だと急斜面ですべる。
この製品は登山靴にスパイク長靴のような滑り止めを付与できる、と。
確かに言われてみればこれは、雪山用のアイゼンというよりも、スパイク長靴に近い発想かもしれない。
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第二部 購入編
購入の指針は冒頭で書いてしまったが。
ここでは何を買うべきかの理由となる各製品の特長を整理してみたい。
どういう場所を歩くなら、どういう製品を買うべきなのかの参考にしてほしい。
1.ずっと雪のある場所を歩くか、雪の無い場所も歩くか
冬の低山や、春のアルプスでは、
「陽の当たる場所の雪は全部融けてしまっている」
「日影では日中の気温で緩んだ雪が、夜間の氷点下で再凍結してツルツル」
という状態が珍しくない。
いやむしろずっと積雪のある状態が続くという方が珍しい。
大きな金属の爪が生えているアイゼン・軽アイゼンは、積雪の無い場所だととても歩きにくい。
積雪の無い日向ではアイゼンを外すことになるが、必要ならまた装着しないといけない。
脱着の容易さ・外した後のかさばらなさというのは結構大きなポイントだ。
EX:チェーン:つけたまま歩ける
A:4本爪:脱着容易で小さい
B:6本爪(巾調整・ハーネス式):脱着は容易だが、外したあとがでかい
C:6本爪(巾固定・テープバンド式):脱着が面倒で、外したあともややでかい
基本的に6本爪以上はずっと積雪が続く状態で使うもので、
積雪の無い所と有る所が混在するような状態なら、4本爪(都度脱着する)かチェーン(つけっぱなしにする)かを選択した方がよいだろう。
2.靴は固いか、柔らかいか
初心者はふつう値段も安く歩きやすい軽登山靴を買うと思う。
いきなり高価で固くて重い登山靴を買う人はいないだろう。
だがここまで述べてきたように、軽アイゼンの種類によっては柔らかい靴には不向きな製品もある。
柔らかい靴でも苦痛なく装着できるかもポイントになる。
A:チェーン:束縛感なし
B:10本爪(小型)・6本爪(巾調整・ハーネス式)
ハーネス形状になっているので束縛感はそこまで強くない
C:4本爪:土踏まずのへこみに収まるので、そこまできつく締めあげずとも
装着できる。ただし靴底が柔らかいと、固い地面を歩いたときに
土踏まずが下からの突き上げを受ける。
D:6本爪(巾固定・テープバンド式):テープひもをぎっちり締めあげないとずれる
テープひもが柔らかい靴に食い込んで痛い。
こうしてみると、軽アイゼンも固い登山靴での使用を想定したものであり。
柔らかい靴との相性がいいチェーンが普及したのももっともだ。
ただ柔らかい靴でも締め上げられる束縛感が無いということは、靴への固定力が弱いという事でもあり、外れやすいという事でもあることは承知されたし。
3.傾斜はきついか、ゆるいか
これはアイゼン類の基本スペックとも言ってよい部分だが。
簡易な軽アイゼンほど急斜面での使用は想定していない。
険しい山に登るなら、それなりのアイゼン類を用意しないといけない。
EX:本格アイゼン:一般に「ピッケルが必要」と言われるルートならば、
アイゼンも本格アイゼンを履いていることが求められる。
A:10本爪(小型):急斜面でも爪先や踵のキックを利かせられる。
しかし爪の長さは6本爪と変わらない。
急斜面と平行に踏み固められた圧雪では爪がちゃんと利いてくれるかの不安がある。
B:6本爪:爪先や踵と使わずとも立てる程度の斜面ならば、6本爪でもそれなりに安心感はある。
C:チェーン:いくら爪先から踵まで滑り止めが利くといっても。チェーンで急斜面に立つのはあまり推奨できない。
チェーンや小さい爪では斜面への食いつきが弱く、またシリコンバンドがずれて靴から外れてしまうかもしれない恐れもある。
D:4本爪:急傾斜では危険。
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第三部 実践編
八ヶ岳の西側、美濃戸から赤岳鉱泉をへて地蔵尾根を登るコース。
この人気コースをGW頃に歩くと想定してみよう。
美濃戸口~美濃戸
:もう雪も残っていない。
美濃戸~堰堤広場
:陽の当たる場所は雪はないが、日影の林道はツルツルに凍結している。何かつけたいところ。
林道で傾斜はほぼないので、4本爪かチェーンで十分だろう。
着けたり外したりを繰り返すので、6本爪以上は面倒だ。
自信があれば何も着けないでも歩けるだろうが、滑って転ばないように気を付けて。
堰堤広場~赤岳鉱泉
:林道が終わり、山道にはいる。
凍結箇所が多めでステップの小さなところもあるので4本爪は慎重に。チェーンが望ましい。
もう雪の無い場所はなくなるので、6本爪以上を装着してもいい。
沢沿いにかかる木の桟道などは雪がなくなっているかもしれないが、そういう所をアイゼンの爪で傷めてしまうのは心苦しい。チェーンを推奨したいが、安全第一で。
赤岳鉱泉~行者小屋
:中山乗越へ向かうと雪が深くなる。とはいえ良く踏まれているので、トレースを踏み外さなければスノーシューの類は無くても問題ない。
チェーンや4本爪でも歩けるが、6本爪の方が安定感をもって歩ける。
行者小屋~地蔵尾根前半
:まだ雪深い樹林帯の中を登っていくと徐々に傾斜がきつくなっていく。
もうチェーンや4本爪では厳しい。
6本爪でも最初のうちは歩けるが、傾斜がきつくなってくると爪先で登らざるをえず、これも厳しい。
圧雪の斜面だが、ステップは切られずに斜面に平行に踏み固められているはずだ。
地蔵尾根後半
:樹林帯を抜け、夏ならば鎖や梯子のあるあたり。本格アイゼンが要る。ピッケルもあったほうがいい。
急斜面と平行に踏み固められた圧雪は、爪の短いもの(小型10本爪・6本爪)では制動が利くか不安がある。
逆にもっと傾斜がきつくなると、本格アイゼンを履いている人たちもキックステップをつかったりツボ足で歩くので、本格アイゼンでなくとも意外と歩ける。(推奨はできないが)
地蔵の頭~赤岳頂上
:稜線上になり、西風に吹き曝しになる。本格アイゼンとピッケルが無ければ危険。
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こんなところだろうか。
厳冬期の雪山はへっぽこハイカーの私の手に余る世界なので他をあたってほしい。
総じて言えるのは、「そのコースを行く他の皆が使っているアイゼン類と同等以上のアイゼン類を装着する必要がある」ということ。
極論を言えばどんな急斜面だろうと階段の様に水平にステップが切られていれば、アイゼン類なしでも歩けなくはないだろう。
だが十分な性能のアイゼン類を装着していると、皆面倒なキックステップなどせずにペタペタと歩いて、結果斜面と平行に踏み固められてしまう。
そういう場面で一段低い性能のアイゼン類だとスリップの危険があるのだ。
冒頭の話に戻るが。
たくさんのアイゼン類を持って行って、道の状況に応じて使い分けるというのも現実的ではない。
しかし本格アイゼン一つしかない人が、麓近くで歩きにくいの(or着けたり外したり)を嫌ってアイゼン無しで歩いて、日影の凍結箇所で滑って転ぶというのもよくある話。
故に私は2つ持つことを推奨したい。
赤岳まで登るのならば、本格アイゼンとチェーンの2つを持つ。最初はチェーンで歩いて、堰堤広場~赤岳鉱泉~行者小屋のどこかで本格アイゼンに履き替える。
北沢~赤岳鉱泉~中山展望台~行者小屋~南沢のスノーハイクコースならば。6本爪とチェーンの2つを持つ。つけたり外したりの発生する北沢コースの林道や、雪の薄くなる南沢の下の方ではチェーンで、それ以外は6本爪と使い分ける。
好みに応じてチェーンを4本爪にしてもいいだろう。
ちなみに2つのアイゼン類を使い分けるまでもない山ならば。
・チェーンをつけっぱなしで歩く
・4本爪を必要に応じて着けたり外したりする
だが。
もし6本爪でないと危険な場所が出てきたらどうしよう?という不安はある。
すなわち、足場が悪く・それなりに傾斜があり・固く凍結しているような場所だ。
そういう場所があると最初から分かっていれば6本爪をもっていけばいいが、必要ないかもしれないのに6本爪を持っていくのは億劫だ、という気持ちはわかる。
そういう場所ではカンプのアイスマスターが良い。これが最近のお気に入り。
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(2022/3/26追記)
ここまでの記事は、当時私が履いていた柔らかめの軽登山靴を前提にしていた。
6本爪の欠点に思えた点も、固めの靴でならばさほど気にならないということは付記しておきます。
軽アイゼンのおさらい
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