2023年5月30日火曜日

奥多摩三大急登の謎

奥多摩三大急登、という言い草がある。
三大といいつつ候補が無数にあって、人によって中身が変わるやつ。
誰が選んでも稲村岩尾根はまず入るが、後はバラバラ。

先日氷川屏風を登っていた際に歩きながら考えた事なのだけど。
そうなっている理由がぼんやりとだが浮かんだのでメモしておきたい。


先に結論を
1 奥多摩には来る人が多いので
1-1 平均レベルが低く、ちょっとした登りでもキツイと思われがち。
1-2 そのキツイが共感・共有・流布されやすい。
2 林業の仕事が丁寧であるがゆえ、急斜面の作業道を通るハイキングコースが作られる。
3 なので「急登」と目される所はたくさんあるが、日本三大急登や北アルプス三大急登になぞらえたものだから、そもそも3つに収まるものではない。


1.
奥多摩は首都圏から近く、山へ登るための公共交通機関の便もいい。
コースも比較的整備され、ガイドブックの類も多い。
その為訪れるハイカーも多く、その中には初心者や高齢者も多い。
ちょっとアレな言い方になるが……いきおいハイカーの平均レベルは下がる。
なので客観的に「急登」かどうかはさておき、その登りを「キツイ」と感じる人数は多くなるだろう。
またそう感じる人数が多ければ、その感じ方は共感され・共有されやすい。
それが奥多摩に「急登」が多い理由の一つではないか。


2.
頻繁に奥多摩の山を、定番コースからは少し外れたようなコースを歩いていれば目にするはずだが。
奥多摩の林業は素晴らしく行き届いている。
非常に急斜面な場所でも杉の植林がなされ、間伐・枝落とし・下草刈りがなされた美しい(何が美しいかの基準はあろうが)杉林なのだ。
たまに地方の低山などを歩くと、その差は歴然としている。
そして急斜面に林業者の作業道や踏み跡ができれば、ハイカーもそこを歩くようになり、場合によっては正式なハイキングコースに格上げにあるのかもしれない。
それが奥多摩に急斜面のコースが多い理由の一つかもしれない。


3.
ところで「奥多摩三大急登」という言い草は、明らかに「日本三大急登」(北アのブナ立尾根、谷川の西黒尾根、南アの黒戸尾根)や「北アルプス三大急登」(ブナ立尾根、合戦尾根、早月尾根)になぞらえたものだろう。
だがそもそも「急登」と目される尾根が既にいくつもあり、特にどこか権威のあるとこが選出するのでもなければ……そもそも3枠に収めるのに無理があったのではなかろうか。


2023/5/28(日) 氷川屏風

前回の青梅とは逆に、短めの時間でもピリリとした所へ行きたい気分。
前々から気になっていたあそこへ行こう。




奥多摩駅から。
ホームから真正面にそびえる氷川屏風(正式名なのかは知らん)。
あそこへ挑みます。


ビジターセンターの脇を行き、氷川小学校の前をよこぎり、




ここ、氷川浄水所の脇の階段から入っていきます。




氷川屏風……地形図を見る限りではとても歩いては登れない、クライミングなのかと思うけれど。
実は鉄塔巡視路があるのです。
それを頼りに行く。


急斜面に手入れの行き届いた植林帯という奥多摩らしい森を、足元を崩さないよう慎重に登っていく。


やがて植林帯の上端に行きつと、露岩が出てきてロープが張ってある。



至る所にロープやザイルが張ってある。
慎重に登れば掴む必要は無い程度ではあるが、足元が少し怪しくなってきているので頼らせてもらう。

鉄塔巡視路といえば、どんな急斜面でも階段を作る印象なのだが。
それでも階段化をあきらめてザイルで済ましているほどだとも言えるかな。




一体誰に向けてだ?と感じる山火事防止看板。
ここを左へ。
右にも踏み跡があったが、さて?何かあるのか?

(追記:右の方へ行くと大きな岩場があり、クライミングする人が来るらしい。)



一番の難所には3段の鉄梯子がかかっていた。
梯子そのものはしっかり固定されているものの、一番下のはしごの足元が狭く崩れやすい。
下りで使う場合、梯子から降りる際に気をつけて。


大量に張ってあるロープ・ザイルだが。
どれも確保は立木にまわしてる。
基本だけど、あまり信用はしすぎないで。




再び鉄塔巡視路標識があらわれたら急斜面の核心部はおしまい。
いやー、背中に冷や汗をかいた。
この感覚、久しぶりだ。


余談。
江戸時代に「数馬の切通し」が拓かれるまで、氷川と白丸の間はゴンザス尾根を越える「根岩(ネーヤ)超え」と呼ばれ……それがこのあたりだったらしい。
白丸の最奥の集落から沢筋を詰めて尾根に上がり、電波塔のある分岐から氷川屏風に進み、氷川に降りたそうなのだが。
今、登ってきたのがその根岩越えなのかというと、たぶん、違うと思う。
近世以前の街道にしたって、荷馬が使えないだけじゃなく、徒歩でも危険すぎる。
これはあくまで鉄塔巡視路で20世紀に新しく作られた道じゃないか?



これは地形図を見たうえでの想像でしかないが。
ここ、氷川屏風の上から北側の緩斜面をたよって除ヶ野の方へ一旦降りたのかもしれない。



6号鉄塔。
ここの北側も尾根のすぐそばまで植林帯となっていて、ここからでも下っていく事は可能の様にみえる。



ゴンザス尾根に合流。
そういえばゴンザス尾根を登るのは初めてかも。
もっぱらもえぎの湯に入るための下山路という認識だった。


サルコシ
菌に養分を奪われボロボロになった木とは反対に、サルノコシカケはカッチカチに固い。

こちらはまだ新しく柔らかいサルコシ


本仁田山。
曇天だったけど以外にも富士山が見えた。
高い位置の雲だったんだな。


家にあった食べかけのお菓子を持ってきたのでおやつに食べる。



平石山へ向かう。
こういうモノレール、いっぺん乗ってみたいなーとつぶやいたところ、
フォロワー氏から「ものすごい振動と騒音で5分で降りたくなる」「楽しい事は楽しい」
という返答を頂く。




さて。
平石山から南尾根をくだってみる。
踏み跡はふんだんにあるのだけど……
尾根が太すぎて、踏み跡が散逸し、どこを降りたらいいのかが見えにくい。


ステップの無い急斜面を慎重に10分ほど下ってくると道型もはっきりして歩きやすくなる。
テープや境界見出杭なんかも多少はあるけど、ここのは林業者のためのだな。
ハイカー用の目印じゃない。
初見の下りならばこまめにGPS見たほうがいいかも。
林業者は斜面を平面移動するための踏み跡を作るので、登りにおいても歩きやすそうな踏み跡に釣られると変な所に行ってしまうかも。




これは?
大きな岩が落ちていかないように支えている……のは分かるが。
なんの為に?
下は植林のみで何か施設があるって訳でもないのだが。




尾根を末端まで南下するつもりだったが。
東へ下る鉄塔巡視路があった。
安寺沢の方に出られそうなので、こっちへ行ってみる。




すぐに民家の脇にまろび出た。
ここは……
なるほど、本仁田山への入口の、もうちょっと先か。


あれに登ったんだ。


昼過ぎて蒸し暑く、夏のよう。



山越えて、酒あるところへ我帰る


日本酒の種類が増えてた。
澤乃井の本醸造も好きなんだけど、先日澤乃井園で溺れるほど飲んだばかりなのでね。


ヤナギコージの新メニュー?わさび丼。
ご飯の上に鰹節、白髪ねぎ、刻み海苔、生卵。
わさびの香りを殺さぬよう、しかしわさび丼の物足りなさを補ういい組み合わせだと思う。
セルフでシャコシャコすりおろすわさびを舐めてそれでまた酒が飲める。

その後もえぎの湯で露天風呂&ビールを決めて帰った。
駅前の広場にわさび食堂のキッチンカーも出ていたが、ちょうどご飯が品切れになってて。
そちらはまた今度。

なんだかんだで結局6時間近く歩いたが、程よく刺激的なルートだった。
駅のすぐそばにこんなルートがあるというのは面白いが、確かにここは登山ガイドには載せられないな。