汚い話で恐縮だが、これはいつか自分の考えをまとめておかねばと常々感じてきた話でもある。
雉撃ち・お花摘みといった隠語もあるが、つまりは野糞。
生理現象であり、もよおしてしまえばそのへんでいたす事になるのは仕方ない。
私自身お腹が頑丈な方でもなく。
特に山で泊まった翌朝は出発前にトイレを済ませておいても、歩き始めてしばらくすると再び大便がしたくなるという困った体質をしている。
故に比較的野糞をよくする人間だと思う。
全日本人を野糞した回数でランキングすれば上位数%には入ると思う。
山に慣れていない人からしたら、「山の中なんだから、どこでもそのへんでできるのじゃない?」と軽く思われるかもしれない。
だが実際に山道を歩いてみれば分かるだろう、気軽に野糞できる場所というのは意外とそんなに多くはないのだ。
ここではそんな野糞にまつわる作法・マナーについて整理しておきたい。
■だめな理由
まず前提として、山での排便・排尿はその性質上強くは禁じることはできないものの、マナーとして非推奨とされている。
出発前にトイレは済ませ、山中では所定のトイレでのみ用を足す事が求められている。
なぜ野糞がだめなのか、その理由を先にあげてみよう。
1美観
2美意識
3水質汚染
4野生動物への餌やり
の4つが思いつく。順に説明する。
1美観
せっかく山を歩いているのに、道端に人間のうんことケツを拭いた紙が落ちてたらどうだろう?真っ白い雪が黄色くなっていたら?
かつての富士山はトイレが垂れ流しで、遠目にも沢筋が茶色く見えていたという。
これがよろしくない事について説明の必要はあるまい。
2美意識
いくら緊急事態だからといって、ケツを丸出しにしてかがんでいる人とばったり遭遇したらどうだろうか。
また自分がそうしているのを人に見られたらば。
特に女性ならば気まずいとかいう問題でもない。
これも説明不要かと。
3水質汚染
ここからちょっと説明が要る。
自然の浄化力には限度がある。
特に入山者の多い山で皆が皆、そのへんで野糞をたれるとなると、そこの水質を汚染してしまうのだ。
実際に麓の湧き水で「名水」とされていた場所が、基準値以上の大腸菌が検出されて飲用不適になった所もある。
差し障りがあるのでどことは言わないが。
また山際の集落では山から流れてくる沢水をそのまま生活用水に使用している所もある。
(流石に現代で飲用には使うことは無いと思うが)
また登山の必需品でありながら非常に重たい「水」を山中で得られる水場は大切な場所だ。
そうした水利の場所を糞尿で汚染してはいけない事は分かっていただけるだろうか。
4野生動物への餌やり
近年ハンター人口の減少もあり、鹿の過剰繁殖が問題になっている。
人間の糞は、まだ栄養価がふんだんに残っているため野生動物からしたら食べ物になってしまう。
野生動物への餌やりがなぜだめなのかは流石に一から説明してられないので他をあたってください。
■対応策
さてなぜだめなのかを確認したならば、どうすれば良いのかもみえてくる。
当然ながら山中で用たしなどせずに済むようにしておくのが一番ではあるが、どうしてもしたくなった場合の話。
1.景観を損ねない
山道の上でしない。
登山道はもちろんのこと、山林関係者が歩く作業道でも同じ。
当たり前ですね。
2.人に見せない
どうしてもしたくなったらば、登山道からは見えない場所にまで移動してすること。
見られると気まずいというだけでなく、ルールに反する行いをしているのを人に見せないという意識が大切です。と、言うは簡単だが。
実はここが冒頭に述べた一番難しいところでもある。
山は深く険しいほど、本来人間が歩いて移動できる場所ではない。
そんな場所に「山道」という人工物を作ることによって、かろうじて通行できるようにしている。
そのため、そもそも山道をはずれることが難しい場所が多いのだ。
はずれることが難しい場所の例
ヤセ尾根・崖道・谷底
はずれる事ができる場所の例
広い尾根(斜面を少し下れば登山道から視線が通らない)
なだらかな樹林帯(道をはずれれば、起伏・岩陰・樹木等で視線が通らない)
言うまでもなく自身の安全確保も必要だ。
急斜面を無理に降りていって、お尻丸出しの墜落死体となって発見などされないように。
次に述べる水質汚染の件も含めて、事前に地図を読図しておいて「このあたりでは野糞できないだろうな」「できる場所を探すとなればこのあたりだろうか」とあたりをつけておく必要もあるかもしれない。
実際は現地に行ってみないとわからない点も多いだろうけど。
3.水を汚染しない
山中で湧き水や沢水を飲んでよいかどうかの判断基準をご存知だろうか。
水を得られる場所に水が集まってくるより上部側の分水嶺内に、
・人工物(民家・山小屋・放牧場・畑・トイレ、など)がある ⇛完全に駄目
~水質が糞尿や農薬や洗剤などで汚染されている可能性がある
・人工物は無いが、長い距離を流れる沢水 ⇛多分大丈夫だが、できれば煮沸を
~沢を流れる途中で動物の死体や糞尿が交じる可能性はあるため
・人工物がなく、その場で地中から湧き出ている水 ⇛ほぼそのまま飲める
ここから遡って考えれば、糞尿を垂れてはいけない場所も分かるだろう。
水場や民家などの水利の場所の上部側はなるべく避けるべきだし、沢の中よりも沢を離れた尾根側でするべきだ。
4.野生動物に与えない
究極的には「持ち帰ること」だが、なかなか心理的な抵抗感も強いだろう。
新聞紙などでくるんで直接見えないようにして、ジップロックで二重に封をすれば匂いも含めて漏れることはない。
赤ちゃんの紙おむつみたいなものだと考えればいいのかもしれない。
それが難しいならば、せめて穴を掘ってその中にして、後で土で埋めておくべきだろう。
紙も埋めるならばせめて水に溶けるタイプの紙にしたほうが分解が早い。
■最後に
野糞の話に限ったものでもないのだが。
山でのマナーとかルールと呼ばれるものは保守的な傾向にある。
命や環境に関わるので、保守的になるのも当然といえば当然なのだが。
ただ、何にかこう隠秘的な態度というか、密教的というか、口伝的というか……
はっきりとルールとして明示されないアレヤコレヤがあったりもするのを初心者の頃からずっとモヤモヤと感じてはいた。
長く山に登っていろいろと経験するうちにそのへんのアレヤコレヤの背景にある事情はなんとなく察せられるようにはなるのだが。
わきまえた少数の限られた人間が行う分には環境負荷的に問題ないが、
多数の初心者や部外者までが同じように振る舞うと自然の自浄力・回復力を超えて問題になってしまう、という面はある。
近い問題に「指定地以外のテント泊禁止」「避難小屋の計画利用禁止」がある。
あれも法・条例の根拠や歴史的経緯、地域ごと山ごとの特性などを調べると単純ではない。
だがOKにしてしまうと問題が大きくなるため、明示的には「禁止」という事にせざるを得ないのだろう。
禁止されているルールを踏み越える自覚のあるやつだけが、人に見られないようにやれ、というわけだ。
保守的・閉鎖的に見えるかもしれないが、そうならざるを得ない事情もわかる。
ただ野糞に関しては。
生理現象ということもあって一律禁止とも言いがたいし、
建前上はやらないようにと言ってる手前、やる際の作法みたいなのを啓蒙しにくいという矛盾を抱えているように思う。
そんなジレンマがあるため、公的な場(登山書など)では触れにくい。
そんなテーマだからこそ、個人の考えをまとめておきたいと思った次第です。
山に慣れていない人からしたら、「山の中なんだから、どこでもそのへんでできるのじゃない?」と軽く思われるかもしれない。
だが実際に山道を歩いてみれば分かるだろう、気軽に野糞できる場所というのは意外とそんなに多くはないのだ。
ここではそんな野糞にまつわる作法・マナーについて整理しておきたい。
■だめな理由
まず前提として、山での排便・排尿はその性質上強くは禁じることはできないものの、マナーとして非推奨とされている。
出発前にトイレは済ませ、山中では所定のトイレでのみ用を足す事が求められている。
なぜ野糞がだめなのか、その理由を先にあげてみよう。
1美観
2美意識
3水質汚染
4野生動物への餌やり
の4つが思いつく。順に説明する。
1美観
せっかく山を歩いているのに、道端に人間のうんことケツを拭いた紙が落ちてたらどうだろう?真っ白い雪が黄色くなっていたら?
かつての富士山はトイレが垂れ流しで、遠目にも沢筋が茶色く見えていたという。
これがよろしくない事について説明の必要はあるまい。
2美意識
いくら緊急事態だからといって、ケツを丸出しにしてかがんでいる人とばったり遭遇したらどうだろうか。
また自分がそうしているのを人に見られたらば。
特に女性ならば気まずいとかいう問題でもない。
これも説明不要かと。
3水質汚染
ここからちょっと説明が要る。
自然の浄化力には限度がある。
特に入山者の多い山で皆が皆、そのへんで野糞をたれるとなると、そこの水質を汚染してしまうのだ。
実際に麓の湧き水で「名水」とされていた場所が、基準値以上の大腸菌が検出されて飲用不適になった所もある。
差し障りがあるのでどことは言わないが。
また山際の集落では山から流れてくる沢水をそのまま生活用水に使用している所もある。
(流石に現代で飲用には使うことは無いと思うが)
また登山の必需品でありながら非常に重たい「水」を山中で得られる水場は大切な場所だ。
そうした水利の場所を糞尿で汚染してはいけない事は分かっていただけるだろうか。
4野生動物への餌やり
近年ハンター人口の減少もあり、鹿の過剰繁殖が問題になっている。
人間の糞は、まだ栄養価がふんだんに残っているため野生動物からしたら食べ物になってしまう。
野生動物への餌やりがなぜだめなのかは流石に一から説明してられないので他をあたってください。
■対応策
さてなぜだめなのかを確認したならば、どうすれば良いのかもみえてくる。
当然ながら山中で用たしなどせずに済むようにしておくのが一番ではあるが、どうしてもしたくなった場合の話。
1.景観を損ねない
山道の上でしない。
登山道はもちろんのこと、山林関係者が歩く作業道でも同じ。
当たり前ですね。
2.人に見せない
どうしてもしたくなったらば、登山道からは見えない場所にまで移動してすること。
見られると気まずいというだけでなく、ルールに反する行いをしているのを人に見せないという意識が大切です。と、言うは簡単だが。
実はここが冒頭に述べた一番難しいところでもある。
山は深く険しいほど、本来人間が歩いて移動できる場所ではない。
そんな場所に「山道」という人工物を作ることによって、かろうじて通行できるようにしている。
そのため、そもそも山道をはずれることが難しい場所が多いのだ。
ヤセ尾根・崖道・谷底
はずれる事ができる場所の例
広い尾根(斜面を少し下れば登山道から視線が通らない)
なだらかな樹林帯(道をはずれれば、起伏・岩陰・樹木等で視線が通らない)
言うまでもなく自身の安全確保も必要だ。
急斜面を無理に降りていって、お尻丸出しの墜落死体となって発見などされないように。
次に述べる水質汚染の件も含めて、事前に地図を読図しておいて「このあたりでは野糞できないだろうな」「できる場所を探すとなればこのあたりだろうか」とあたりをつけておく必要もあるかもしれない。
実際は現地に行ってみないとわからない点も多いだろうけど。
3.水を汚染しない
山中で湧き水や沢水を飲んでよいかどうかの判断基準をご存知だろうか。
水を得られる場所に水が集まってくるより上部側の分水嶺内に、
・人工物(民家・山小屋・放牧場・畑・トイレ、など)がある ⇛完全に駄目
~水質が糞尿や農薬や洗剤などで汚染されている可能性がある
・人工物は無いが、長い距離を流れる沢水 ⇛多分大丈夫だが、できれば煮沸を
~沢を流れる途中で動物の死体や糞尿が交じる可能性はあるため
・人工物がなく、その場で地中から湧き出ている水 ⇛ほぼそのまま飲める
ここから遡って考えれば、糞尿を垂れてはいけない場所も分かるだろう。
水場や民家などの水利の場所の上部側はなるべく避けるべきだし、沢の中よりも沢を離れた尾根側でするべきだ。
4.野生動物に与えない
究極的には「持ち帰ること」だが、なかなか心理的な抵抗感も強いだろう。
新聞紙などでくるんで直接見えないようにして、ジップロックで二重に封をすれば匂いも含めて漏れることはない。
赤ちゃんの紙おむつみたいなものだと考えればいいのかもしれない。
それが難しいならば、せめて穴を掘ってその中にして、後で土で埋めておくべきだろう。
紙も埋めるならばせめて水に溶けるタイプの紙にしたほうが分解が早い。
■最後に
野糞の話に限ったものでもないのだが。
山でのマナーとかルールと呼ばれるものは保守的な傾向にある。
命や環境に関わるので、保守的になるのも当然といえば当然なのだが。
ただ、何にかこう隠秘的な態度というか、密教的というか、口伝的というか……
はっきりとルールとして明示されないアレヤコレヤがあったりもするのを初心者の頃からずっとモヤモヤと感じてはいた。
長く山に登っていろいろと経験するうちにそのへんのアレヤコレヤの背景にある事情はなんとなく察せられるようにはなるのだが。
わきまえた少数の限られた人間が行う分には環境負荷的に問題ないが、
多数の初心者や部外者までが同じように振る舞うと自然の自浄力・回復力を超えて問題になってしまう、という面はある。
近い問題に「指定地以外のテント泊禁止」「避難小屋の計画利用禁止」がある。
あれも法・条例の根拠や歴史的経緯、地域ごと山ごとの特性などを調べると単純ではない。
だがOKにしてしまうと問題が大きくなるため、明示的には「禁止」という事にせざるを得ないのだろう。
禁止されているルールを踏み越える自覚のあるやつだけが、人に見られないようにやれ、というわけだ。
保守的・閉鎖的に見えるかもしれないが、そうならざるを得ない事情もわかる。
ただ野糞に関しては。
生理現象ということもあって一律禁止とも言いがたいし、
建前上はやらないようにと言ってる手前、やる際の作法みたいなのを啓蒙しにくいという矛盾を抱えているように思う。
そんなジレンマがあるため、公的な場(登山書など)では触れにくい。
そんなテーマだからこそ、個人の考えをまとめておきたいと思った次第です。
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